熟女と人妻のエッチ告白・体験談

~熟女と人妻の不倫・寝取り寝取られ話集~

     正しいH小説の薦め                     アダルトエンジェル                     Adult Blog Ranking                     エロい体験談アンテナ                     FC2 Blog Ranking

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- ] スポンサー広告 |

妻の浮気が発覚

問いただせば簡単に済む問題も、自分が躊躇した瞬間から妻に対する疑いの形に変わって行った。
疑いを解決する方法は色々有るのかもしれない、灰皿を見つけた時に妻に問い詰める方法、或いは吸っている現場を押さえる方法。

いずれにしても、妻がガラムを吸っていた事は明白であり、この段階で私の中には妻の素行に興味が移っていたのかも知れません。

妻は長女の出産を期に一度勤めていた会社を退職したが、長男が生まれてから少しすると、前の上司の薦めもあり派遣社員の形で、また同じ会社に勤めていた。
その会社は、そこそこ名の知られた観光会社である、二度目の時は経験も評価され、添乗の仕事もある事を妻は私に納得させていた。
元来家に閉じこもっているのが似合うタイプの女性ではないと思っていた私は、妻の仕事に口を挟む気はなかった。
行動を起こすでもなく、数日が過ぎたある日仕事も速めに終わった私は同僚の誘いも断り、妻の勤める会社の近くに私は足を進めていた。
妻の素行が知りたいという私の気持ちは、気づいた時には探偵の真似事をさせていました。
町の目貫通りに面した妻の会社は人道通りも多く、人並みの影から様子を伺うにはさほどの苦労は無かった。
午後6時頃現場に着いた私は、15分位でしょうか、探偵気取りで道路の反対側にある妻の会社の出入り口に神経を集中していると、突然聞きなれた女性の声で、私は出入り口から目を離すことになった。
その女性は、妻の会社の同僚の佐藤さんでした。

「奥さんと待ち合わせですか?」

突然の会話に、答えを用意していない私は多少狼狽していたことでしょうが仕事の関係上帳尻を合わせて会話するのは容易でした。

「たまたま近くに居て、仕事が速く終わったので女房を脅かしてみようかと思って」
「大分待ったんですか?」
「そんなでも無いですよ、今来たばかりです。」
「そうなんだ、でも連絡すれば良かったのに、奥さんもう帰りましたよ」
「そうなんですか。」
「今 私と別れたばかりですよ、そこの喫茶店で。」

新婚当時、妻がまだ正社員の頃は何時も夕方6時ごろに会社に迎えに行きデートをした記憶があった私は、
固定観念のみで行動を起こしていた。

「あの頃とは違うんですよ、奥さん派遣なんだから残業はあまりしないのよ。」
「そうなんだ、昔の癖が抜けなくて。」
「お熱いことで、ご馳走様。」
「今追いかければ、駅で追いつくかも?」
「良いんです、別に急に思いついたことなんで。」

多少の落胆を感じながらも、私は好期に恵まれたような気になって会話を続けた。

「佐藤さんはこれからどうするんですか?、もう帰るんですか。」
「特に用事もないし、帰るところ。」
「この前飲んだの何時でしたっけ?」
「大分前よ、2ヶ月位前かな?、武井君の結婚式の2次会以来だから。」

私たち夫婦は、お互いの会社の同僚や部下の結婚式の二次会には、夫婦で招待を受けることが多く、その時も夫婦で参加し、三次会を私たち夫婦と佐藤さんや他に意気投合した数名で明け方まで飲んだ記憶が蘇った。

「あの時は、凄かったね?」
「奥さん凄く酔ってたみたいだったし、私には記憶がないと言ってましたよ。」
「凄かったね、何か俺に不満でもあるのかな?」

頃あいを見た私は、本題の妻の素行を探るべく、佐藤さんに切り出した。

「もし良かったら、ちょっとその辺で飲まない?」
「二人で?、奥さんに怒られない?」
「酒を飲むくらい、この間の女房のお詫びもかねて。」
「それじゃ、ちっとだけ。」

とはいえ私は妻帯者でり、あまり人目につく所で飲むのは、お互い仕事の関係から顔見知りの多い事もあり、暗黙の了解で、人目をはばかる様に落ち着ける場所を探していた。

「佐藤さん、落ち着ける場所知らない?」
「あそこはどうかな、奥さんに前に連れてきて貰った所。」

佐藤さんは足早に歩を進めた。
妻の会社から10分位の所にその店をあった。
幅2メートル程の路地の両脇に小さな店が並ぶ飲み屋街の奥まった所に、その店はあった。
店の名前は蔵、入り口のドアの脇には一軒程の一枚板のガラスがはめ込んであり、少し色は付いているものの、中の様子が見えるようになっていた。
店の中は、喫茶店ともスナックとも言いがたい雰囲気で、マスターの趣味がいたる所に散りばめられた店という感じで、私にはその趣味の一貫性の無さに理解の息を超えるものがあったが、席に着くと変に落ち着くところが不思議だった。
とりあえずビールであまり意味の無い乾杯から始まり、結婚式の二次会の話で盛り上がり、一時間位して酔いも回った頃。
私はおもむろに、女房の素行調査に入った。

「佐藤さんタバコ吸う?」
「吸ってもいい?」
「かまわないよ、どうぞ。」
「奥さん旦那さんの前で吸わないから、遠慮してたんだ」

あっけなく妻の喫煙は裏づけが取れた。
にわか探偵にしては上出来であろう結果に、一瞬満足していたが。
この後続く彼女の言葉に私の心は更なる妻に対する疑惑が深まっていった。

「そういえば、女房はガラム吸ってるよね?」
「でもね、正直言って私は好きじゃないのよね、ガラム。」
「ごめん、最近まで俺もガラム吸ってた。」
「私こそごめんなさい、タバコって言うより、それを吸ってるある人が嫌いって言ったほうが正解かな。」
「誰なの?」
「ご主人も知ってるから、いい難いな。」
「別に喋らないから。」
「○○商店の栗本専務さん」
「栗本専務なら私も知ってる。」

栗本専務言うのは、私たちの町では中堅の水産会社の専務で、私も営業で何度か会社を訪問していて面識はあった。

「どうして嫌いなの?」
「栗本さん、自分の好みの女性を見ると見境が無いのよね。私もしばらくしつこくされたけど、奥さんが復帰してからバトンタッチ。」
「そんなに凄いの?」
「凄いの、そのとき私もあのタバコ勧められたんだけど、それで嫌いになったのかな、あのタバコ。」
「女房も彼に薦められて、吸うようになったのかな?」
「ご主人じゃないとすれば、多分そうでしょうね、奥さんもともと吸わない人だったから。
会社復帰してからですもんね。ここの店も栗本さんに教えてもらったらしいですよ。」

そんな会話をしている内に、夜も10時をとっくに過ぎ、どちらからとも無く今日はおひらきとなり、割り勘と主張する彼女を制止し、会計を済ませた私は店の外で彼女の出て来るのを待つ間、一枚ガラスの向こう側に見えない何かを探しているようでした。

その後の私は、仕事も極力速めに切り上げるようにした。
かといって家に早く帰るわけでもなく、探偵の続きをしていたのです。
毎日はできませんが、できる限り妻の会社の出入り口を見張り、妻の退社後の行動を掴もうと躍起でした。
この頃になると、喫煙の有無は問題ではなくなっていました。
妻がもしや浮気をしているのではないか、私の気持ちは一気に飛躍していました。
だかそれが現実のものとなって自分に押し迫ってくるのに、さほどの時間はかかりませんでした。

長男が生まれた頃から、私は妻に対して新婚当時ほどの興味を示さなかったのは事実でしょう。
それは妻のほうにも言えることだと思います。
ですが、あのタバコの一件以来、私は妻の言動の細部に渡って、観察集中するようになっていました。
今まで何気なく聞き流していた、言葉が気になってしょうがありませんでした。
妻の行動が気になり始めて、1月程経った頃でしょうか。
それは突然やってきました。

「あなた、今度の日曜休めない?」
「家の仕事か?」
「ん~ん、私日帰りの添乗の仕事入ったから子供見ていてほしいの。無理かな?」
「何とかしてみる。」

私はとっさに承諾に近い返事をしていました。
私の仕事は、日曜がかきいれどきのような仕事ですが。
月に1度位は、土日の休みがシフトで回ってきます。
妻の日帰り添乗という日は、後輩にシフトを交代してもらい、休みを取ることが出来た。
そこで私は考え行動に出ました。
家に帰った私は、妻に予定の日休めない旨を伝えました。

「昨日の話だけど、日曜はやっぱり無理だ、ごめん。」
「そう、お母さんに頼んでみる。」
「すまないな。ところでどこに行くんだ。」
「山形の方よ!」
「誰と、何時から?」

いつもはしない私の質問に、妻は少し怪訝そうに答えました。

「取引先の役員さん達と、社員旅行の下見。」

これ以上の質問を回避するかのように、妻は続けた。

「9時頃会社を出て、夕方までには戻れると思うよ。」

私もこれ以上の質問は、墓穴を掘りかねないと判断し、気をつけて行って来る様に言うと会話を止めた。

当日の朝私はいつもの時間に家を出て、妻の会社の最寄り駅の駅の公衆トイレの影から妻の到着を待った。
この時点では、また素行調査のいきは脱していないが、8時45分頃着いた電車から妻が降りてきてからは、ただの挙動不審の男になっていた。
日帰りの添乗とは行っても、妻は軽装で荷物も手提げのバック1つだけ。
駅から真っ直ぐ南に歩き、2目の信号を渡って左に曲がって200メートルほど行ったところに妻の会社がある。
時計を見て歩き出した妻は、会社の方向へ歩き出したが、1つ目の信号を左に曲がり、目貫通りの一本手前の道路に入ったのでした。
その道路は一方通行で、角から私が除く50メートル程向こうでしょうか、一台のグレーの高級国産車がこちらを向いて止まっており、妻はその車に乗りました。その車はおそらく数秒後には、私の居るこの交差点を通過していくだろう、そう思ったとき、重圧に押しつぶされそうになりながら、車内の構成を瞬時に想像していました。
得意先の役員が数名、それに妻が同行で車の大きさから多くても5名位、まさか二人だけということは無いようにと願う自分も居ました。
考えているうちに、耳に車のエンジン音が聞こえて、その車はスピード落とし左折して行きました。
そのとき車の中には、妻が助手席に一人、後部座席には誰も居らず、運転席には私の心のどこかで、そうはあってほしくない人間の顔がありました。そうです、やっぱり栗本です。
左折しようと減速した車の助手席では、妻が前髪で顔を隠すような仕草して俯いていました。
自分の顔を他人に見られたくないという行動に他ならない。
一瞬私は吐き気を覚えました、何故かは分かりませんが次の瞬間、冷や汗と同時に歩道の上にしゃがみ込んでいました。

その日曜を境に、私はより確信に迫ろうとするのではなく、逆に妻を自分から遠ざけるになって行ったのです。

時折、通る人たちの冷たい視線を感じながらも、しばらくの間動けずにいた私は、体の自由が戻ると朝近くの駐車場に止めてあった車まで着くと、鉛のような重さを感じる体を、投げ出すように運転席に着いた。
しばらくそのままの状態が続き、その間に何本のタバコを吸ったのであろうか、手にしていた箱にはもう一本も残っていなかった。
駐車場を出た私は、すぐ隣のタバコ屋の前に車を止めると、店先の販売機には目もくれず、店の中に入りあのタバコを注文していた。
おつりを受け取るとき、手から毀れる小銭の感覚に気づきはしたが、しゃがみ込んで拾い上げる気力もない私は其のまま車へ向かった。後ろからタバコ屋の店員の呼び止める声がしたが、振り返ることもなく車に乗り込み走らせていた。

タバコ屋を出てから何分経ったであろうか、私の車は港の防波堤の所に移動していた。
最初私は思考のないマネキンのように海の方を身動きもしないで見つめているだけでしたが、時間が経つにつれて数時間前のあの光景が脳裏に蘇(よみがえ)りましたが、思考回路に命令を与えても、考えの整理がつきません。
そんな時、車の後ろのほうから子供の声が聞こえたような気がして、ルームミラーでその声の主を探した。
ミラーの端からその主は現れた、年のころは4才位だろうか、補助輪の付いた自転車を必死にこいでいた。
その子がミラーの反対側に消えるころ、その子の両親らしき二人ずれが、満面の笑みを浮かべその子に視線を送っている姿が、目に入って来た、次の瞬間私の目からは涙が溢れていた。嗚咽することもなく、両頬に一本の線として流れているだけでした。

あたりは日もかげり時間は6時をまわっていました、時間をつぶして夜遅い時間に家に帰る気にもなれず、ミラーで身支度を確認し家へ帰りました。

玄関を開けると、何時もより早い私の帰宅に気づいたのは儀母でした。

「パパお帰りなさい、早かったんですね。」
「仕事の切も良かったので、早めに帰らせて貰いました。」
「麻美(妻)はお風呂ですか?」
「それがまだなのよ、日曜で帰りの道路が込んでいるらしくて、電話がありました。」

それを聞いた私は、初めて計り知れない怒りを覚えました。
私の中では、今日の妻は日帰りの添乗の仕事ではないという前提の基に、遅れる理由を想像するのは容易い事でした。

「そうですか、お風呂先にいただきます。」
「パパご飯は?」
「済ませましたから。」

そういい残して、リビングにも寄らず脱衣所へ向かいました。
風呂場からは、子供たちのはしゃぐ声が聞こえます、服を急いで脱いだ私は、勤めて明るい笑顔を作り浴室のドアを開けました。

「パパだ!」

子供たちは、不意の訪問者を諸手を上げて歓迎してくれました。
思えば子供たちと風呂に入ることなど暫く無かった様な気がしました。
湯船に浸かった私の膝に子供たちが争うように腰掛けます、その時私は昼間の涙の意味を知りました。
また涙が溢れ出て来ましたが、今度は嗚咽を伴い抑えることが出来ません。
それを見た長女か私を気遣い、一生懸命話しかけて来ます。

「パパ、私ね、今日ね、パパよりもっと悲しいことがあったよ・・・・・・パパ泣かないで。」

私の耳にはそれ以上のことは聞こえませんでした、ただ二人の子供を強く抱きしめる事しか出来ませんでした。
風呂場には暫くの間、嗚咽を堪える私の声、父親の悲しみを自分の悲しみのように泣きじゃくる幼い娘、それに釣られるように指を咥えながらすすり泣く幼すぎる息子の声が響き渡っていました。

子供達を寝かしつけて、寝室に入ったのは20時ごろだったでしょう。
妻はまだ帰って来ませんでした、多少冷静さを取り戻した私は、昼間買ったガラムを1本取り出し火をつけました。
机の上の灰皿を持ちベッドに腰掛けて、タバコを深く吸うと最近吸いなれないその味にむせ返りすぐに消してしまいました。
独特の香りが立ち込める部屋に一人でいた私は、部屋の中を物色(ぶっしょく)し始めていました。
何のためにそうするのか、何を探すのか解らないままその行動は続けられた、しかし何時妻が帰ってくるか解らない、作業は慎重に行われてゆきました。
階段の物音に聞き耳をたて、物の移動は最小限にし、クローセットやベッドの飾り棚、考えられる場所全てに作業は行き渡った。
だが、1時間程の苦労も実らず、私の猜疑心を満足させるものは何も見つからなかった。
心臓の高鳴りと、悶々とする気持ちを落ち着かせる為、ベッドに横になって暫くすると、誰か階段を上がってくる足音がしました。多分妻であろうその音は、子供部屋の方へ進んでいった。
その時私は、先ほどの作業の形跡が残っていないか、部屋を見回していた、変化が有るとすれば灰皿の位置がベッドの上の20センチほどの出窓の上に変わっている位だった。
程なくして、子供部屋のドアの閉まる音がし、寝室のドアが静かに開いた。
私の存在に気づいた妻は、目線を下に下ろしたまま後ろでに持ったドアノブを静かに引いた。

「珍しいね、早かったんだ。」
「あぁ、たまたま仕事が速く終わったから、遅かったな、義母さんに聞いたけど、道路込んでたんだって、それにしても随分掛かったな!」

よく見ると、妻はアルコールが入っているのか、頬が少し赤らんでいるように見えた。
クローゼットを開け着替えを始めた妻は、後ろ向きのまま聞いてもいない、一日の行動を説明し始めた。
妻が説明し始めてすぐに、私の心の何処か片隅に有った小さな希望がもろくも崩れ去った。

「一日中バスに揺られて疲れちゃった。」
「バスで行ったのか?」
「そう、お客さんの会社の送迎バスで、事務所に迎えに来てもらってね!」

顔が青ざめていくのが自分で解りました。
それでも妻は、クローゼットの方を向いたまま、子供をだますような口調で話を続けます。

「旅なれた人たちだから、下見というより、飲み会みたいなものね。
一応、予定の場所は見たんだけど、帰りのドライブインで、宴会になっちゃって、出るのが遅くなったら、渋滞に巻き込まれちゃって。」

何も知らない、以前の私ならば、大変だったなご苦労様の一言ぐらい言っていたのでしょうが。

「それでお前も飲んできたのか?、顔が赤いぞ、酒が強いお前が顔に出るんだから、随分飲んだんだな?」
「お得意さんだもの、進められれば多少飲むわよ!」
「コンパニオンじゃあるまいし、顔に出るくらい飲まなくても。」

言葉の端々に棘のある口調になり、エスカレートする自分を抑えきれなくなり始めていました。
その時パジャマに着替えた妻が、こちらを振り向き、謝罪した。

「ごめんなさい、これから気を付ける。」

そう言われると、次の言葉を飲み込むしかありません。
鏡台に座り、化粧を落とした妻はベッドに入ってきた、その時、窓に置いたタバコに気づき、

「また戻したの、タバコ?」
「なんとなく、吸いたくなって。」
「ごめんなさい、今日は疲れたからお先するね。」
「風呂は入らないのか?」
「明日シャワー浴びる、お休み。」

アルコールの勢いも手伝ってか、妻はすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
寝息を立てる妻に体を寄せみると、自分もさっきガラムを吸った為か、識別はしにくいがタバコのにおいと、微かでは有るが石鹸の匂いがした。
一日バスで揺られて働いて来た人間が、昨日の夜の石鹸の匂いを維持できるはずも無く、風呂に入らずにすむ理由は、私にとって想像する必要も無かった。

ここまで来ると、私の妻に対する疑いは、かなりの確立で的中しているのは、疑う余地も無い。
でも私は、日ごろ見たことも無い妻のバックを除き見たい感情に掻き立てられた。
妻の眠りの深いことを確認すると、クローゼットを静かに開け、妻がさっき持ち帰りクローゼットの隅に無造作に置いてある手提げのバックを持って、子供部屋へ向かった。
長女の机の電気をつけてバックの中身を見てみた、多少の罪悪感は有ったがそれ以上に私は、
さっき寝室で探しきれなかったものが、このバックの中に有る、あって欲しいと願う気持ちが強かったように思う。
中身を見ていくと、財布、定期入れ、アドレス帳、ハンカチ,等在り来たりのものが目に入った。
取りあえず財布の中身は領収書やキャッシュカード,現金と特に気になるものは無い。
次にアドレス帳、あ行から順に追っていっても、私の知っている知人親戚等これと言って怪しいものは無い。
バックの中身を一度全部出してみると、手前の部分にファスナーで仕切られた部分があるのに気づき、
ファスナーを開け中を見た瞬間、目的は達せられました。
中身は、タバコ(もちろんガラム)に女性用の高級そうなライターそして、ポケットベル。
今でこそ、携帯電話が当たり前ですが、当時はまだ携帯電話は一般的ではありませんでした。
目的を果たした私は、元通りにバックを帰し、ベッドに入りこれからの事を考え始めました。
不思議なものです、自分の考えが裏付けされた今、怒りは頂点に達している筈なのに、妻に対する復讐より先に、我が家の今後のを考える自分がいるのです。
その時、私は思いました。世の奥さんは亭主の不貞が発覚したとき、私のように子供のことや家の事を複雑な思い出、考えあぐねるのだろうと。
妻は相変わらず、隣で寝息とも鼾ともつかい音を立てて寝ていました。
その時私は、妻の髪の毛を掴み揺り起こし、その顔に平手を食らわしてやりたい気持でしたが、奥歯が痛くなるほど悔しさをかみ締めてこらえていました。

悔しさでほとんど眠れなかった私は、朝食もとる事が出来ませんでした。
それにしても、妻の行動は余りにも不用意で、もう少し用意周到さがあっても良いのではと思う気持ちも有りました。
何故なら、私は先日妻の同僚の佐藤さんと二人きりで飲んでおり、それは彼女と妻の関係から、妻に伝わっている筈。
その時の内容を聞けば、自分の秘密の一部が私に解ったしまったということで、他の秘密を守るために何らかの動きがあって然るべき。
私はその日、妻の会社の前で佐藤さんを待ちました。
夕方5時半過ぎ、妻が会社を出ました、それから待つこと1時間、佐藤さんが出で来ました。
何気ない振りをして、私は彼女に近づき声を掛けました。

「佐藤さん。」
「びっくりした!、如何したんですか?」
「これから帰るの?」
「そう、○○さんは?」
「実は佐藤さんを待ってたんだ。」
「私?」
「ちょっと聞きたいことが有って、都合悪いかな?」
「別にかまわないけど、何か怖いな。」

歩きながら、彼女は何の話か有るのか必要に聞いてきましたが、私は話をはぐらかして先日の蔵に向かいました。
店の入り口に近いいて中を見たとき、有ろうことか店の奥まった席に、妻が一人で座っているではありませんか。
私は振り向きざま、佐藤さんの肩に両手を添えて、そのまま後ろ向きにさせると、店の中を見れないようにもと来た道に彼女を追い立てました。

「如何(どう)したんですかしたんですか?」
「満席。」
「へー、そうなんだ!」

予期せぬ遭遇とは言え、自分の不用意さを反省しながら別の店へと足を運びました。
そこの店は私が何度か足を運んだことのある店で、私よりも若い人たち(20~25才位)が集まる店でした。
サーファーが多くトロピカルな雰囲気の店。
蔵とは違い、目抜き通りに近い店にもかかわらず、彼女は抵抗無く付いてきました。

「ここで良かったかな?」
「私も来たこと有るから!、妹もよく来るし。」
「妹さんいたっけ?」
「ん、それより、話って何ですか、気になるんですけど?」

私は、先日二人で飲んだことを、妻に話したか如何(どう)かを単刀直入に質問した。
彼女から帰ってきた答えは、NOだった。

「だって、あの時私もちょっと喋り過ぎたし、それに麻美さん焼餅焼きだし、麻美さんにばれちゃいました?」
「そうじゃないんだけど、まだ隠れて吸ってるみたいだから。」
「そうなんだ、今日のことも内緒が良いかな?」
「特に問題は無いけど、言う必要も無いかな。」

佐藤さんとの二人の飲み会が、妻に伝わっていなければ、妻の行動に変化が起こるわけも無い筈である。
妻が焼餅焼きという言葉には、いささか驚きました。
何時の時点までなのか、いまだにそうなのかは解りませんでしたが、
少なくとも他の男と関係を持つまでの妻は、同僚から見れば私に対して嫉妬深い女だったのでしょう。

カウンターを含め15席程度の店内は、既に2、3席を残し満員状態、入店してから30分位取り留めの無い話をしていると、店のドアが開き二十歳ぐらい女性が一人入ってきました。

「由香!」
「お姉ちゃん!」
「由香里さんじゃないですか。」
「知り合いですか?(佐藤さん)」
「仕事の関係で、ちょっと。」

その女性は、佐藤さんの妹でした。
驚いたことに、その女性は私も面識のある女性だったのです。
小さな町ですが、偶然というものは恐ろしい、と言うよりは個々の人の情報を知らな過ぎたのかもしれません。
彼女は同じ系列の販売店に勤める、いわば私の同業者でした。
その後もう一人女性が入って来ましたが、妹さんの連れでした。
二人は、ちょうど開いていた席に私たちを両脇から挟むように座ろうとしたため、私が席を移動しようとしたとき、彼女達に肩を抑えられ、上げた腰を同じ席に沈めました。

「そのままで良いですよ。」
「特に積もる話も無いですから、
○○さんさえ良ければ、
ここに座って良いですか。」
「私は良いですけど。」

連れの女性は、佐藤さんとはかなり親しいようで、座った瞬間から何の抵抗も無く会話をしていて、私は必然的に妹の由香里さんと話をするしかなかった。
元々、今日の目的は済んでおり、由香里さんとの会話は新鮮味を感じることが出来たのも事実である。

彼女とは、店舗も近いと言うことからメーカーのイベントなどでも度々話す機会があったため、飲みながら話をしていると、杓子定規な話からプライベートの話に移行するには、時間を必要とはしなかった。
この女性「由香里さん」が妻と私の関係に微妙な役割を持ってくるのは、それから間もなくの事でした。

時間を忘れて、辛さから逃れるように由香里さんと飲み続けていたのでしょう。

「○○さん、そろそろ、明日もあるし?(佐藤さん)。」

私もかなり飲みすぎたようで、時計の針もろくに読めない程でしたが、佐藤さんの問いかけに返事をして、マスターに会計を済ませ店を出ました、皆に挨拶をして少し歩き始めた時、不覚にも吐き気を覚え道路脇で戻してしまいました。
吐き気も治まったころ、背中を摩る手に気づき、すみませんと言いながら振り返るとそこには、今別れたばかりの由香里さんが、中腰の彼女は眉尻を下げて私の顔を覗き込んでいました。
由香里さんは、後ろから私の肘を掴むように支えてくれて、深夜喫茶に連れて行ってくれました。

「少し酔いを覚まして。」
「すみません、少し楽になりました、すみません。」
「そんな姿を、可愛い娘さんが見たら心配しますよ。」
「もう寝てます。」

時計を見ながら答える私、由香里さんが頼んでくれたらしいコーヒーがテーブルの上に差し出されました。
私はまた、すみませんを連呼していました。
かなりの醜態を見せてしまっていた筈です。
水を一気に飲み干し、コーヒーに手を伸ばし一口啜ると、すぐに皿にカップを戻しました。
元々とコーヒーは好んで飲む方で無かった私は、コーヒーの熱さも手伝って、そのカップをまた手にすることは無かった。
タイミングを見ては由香里さんが頼んでくれた、水を3杯程飲んだころには、多少酔いも冷めて来た。

「さっき戻したのが良かったんですね、顔色が大分良いですね。」
「助かりました、すみません。」
「そろそろ帰りましょうか。」

その時の私には、一回り近く年の違う由香里さんに醜態をさらしたという思いから、まともに顔を上げることが出来ませんでした。
通りに出てタクシーを待つ間、正気を取り戻し始めた私は、由香里さんに丁寧に感謝の意を伝えると。

「○○さん、気にしないで下さい、詳しいことは知りませんが、辛い気持ちは良くわかります。」

由香里さんと飲んでいる間、妻の不貞に関する事を知らず知らずに話していたのかも知れません、いや誰かに聞いてもらいたく、間接的に伝えていたのかも知れません。
空車が一台、由香里さんが止めてくれ私を乗せてくれました。
別れ際、タクシーのウインドー越しに由香里さんが言葉を掛けてくれました。

「頑張ってください、私で良ければまたお付き合いしますから。」
「ありがとう。」

深々と頭を下げた私を乗せて、タクシーは走り始めました。

家に着くと、さすがに風呂に入る気にもなれない私は、寝室に直行しました。
寝室のドアを開けた私は驚きました、妻がベッドに腰を掛けて起きているでは有りませんか。

「こんな遅くまでどうした?」
「あなたこそ、如何したの?、2時過ぎてるよ。」
「会社の連中と、ちょっと飲みすぎた。」

スーツをクローゼットの中に脱ぎ捨てるように、下着のままベッドに滑り込んだ。
私のスーツを片付けると、部屋の明かりを落とし、妻もベッドの中に入ってきて、私がまだ眠りについていないのを確認すると、話しかけてきた。

「あなた、何か有った?」
「何でだ?」
「お姉ちゃんから聞いたんだけど!」
「あぁ、なんでもない。」
「でも、あなたが子供に涙見せるなんて!」
「何でもない!・・・・」
「私には、話せない?」

お前が原因だ、などと言えるはずも無く、暫し沈黙が続いた。
妻も、何か感ずるものがあるのか、それ以上の追求は無かった。
いつの間にか寝てしまったようで、体に違和感を覚えた私は少し朦朧とするなか少し目お開けた。
何時もは背を向けて寝ている筈の妻が、私の足に自分の足を絡め、右手は私の胸をまさぐっているではないか、
恐らく私の意識が戻る直前には、股間をまさぐっていたのであろう、下着姿をつけて寝ていた筈の私のトランクスは、そこには無かった。
私の下半身は確かに今まで妻のしていたであろう行為に、明らかに反応していた。
しかし、意識がハッキリするにつれて、これは瞬く間に萎えていった。

「どうしたの?」
「疲れてるんだ、勘弁してくれ。」

吐き捨てるように言うと、妻を押しのけ足元にあったトランクスを手早く身につけると、妻に背を向けて寝てしまいました、いや正確には寝たふりをしました。
背中の向こうでは、妻が下着をやパジャマを直す衣擦れの音が聞こえていました。

翌朝少し頭の痛さを覚えながらも、リビングに降りて行くと、何時もと変わりないように妻が話しかけてきた。

「ご飯食べれますか?」
「いらない、シャワーを浴びたら直ぐ出る。」
「冷たいものでも?。」
「いらない!。」

飲み物は欲しかった、でも妻に言われた瞬間、お前に出してもらいたくない、というのが本当の気持ちだった。
なぜか妻は腫れ物にでも触るかのような、口調だったように感じました。
脱衣所の洗面台の前に立った私は自分の険しい顔をみて驚きました。
この日を境に妻の言動に変化が現れ始めました、言葉使いにいたるまで。

その後も、妻のバックからタバコ,ライター,ポケベルの3点セットがなくなる事はありませんでした。
妻の不貞が確実になる前は、私達夫婦の間にはそれなりの夫婦の営みはありました。
週に1度程度はあったと思いますが、妻の日帰り添乗の日から営みは皆無となりました。
たまに妻から求めてくることはありますが、私の体がそれを受け付けません。
そんなある日、私はメーカーの新車発表会の為、1泊の予定で東京に出張することになりました。
各販売会社から数名が代表で主席して、一般発表する前の新車を内覧するという内容のものです。
会場には千人を超える販売店の人間にメーカーの職員、それは盛大なものでした。
一次会が終わり、地域別の分化会が開かれました。
一次会とは一転して、分化会はこじんまりした感じでした。人数も百人足らず、当然地域別ですから知った顔も多く、その中には由香里さんもいたのです。
メーカーの職員と私が会話をしているところに、一人の女性が割り込んできました、由香里さんです。

「お久しぶりです。」
「お久しぶり。」

前回のことがあるので、少し躊躇している私に由香里さんは、屈託の無い表情でひたしげに会話を進めてくれます。
今日の新車のことや、営業に関する話など、さすがにお互い営業の仕事柄、仕事の話にはこと欠きません。
そのうちメーカーの人間が中座すると、由香里さんが切り出しました。

「この間は、大丈夫でしたか?」
「本当に失礼しました、醜態を見せてしまって。」
「そんな事ないです、辛いときはお互い様です。」
「そういって貰えると、少し気が楽になります。」

そうこうするうちに、文化会もおひらきとなり、人も減り始め由香里さんと二人ホテルのラウンジで、コーヒーでもと言うことになり二人で、ラウンジに向かいました。
内覧会は、東京のベイサイドの大型ホテルを借り切り行われたため、同じホテル内の移動で済すむのです。
ラウンジは、同じような考えの人間で満席状態でした。
それではと、最上階のレストラン,バーと行ってはみたものの、ことごとく満席。
その時由香里さんから提案が。

「しょうがないから、部屋で飲みなおししませんか?、
今日はお互い個室ですし、気兼ねなくお話が出来ますよ!」
「独身女性と二人は、不味くないですか?」
「何かまずい事でも?下心有りですか?」
「そうではないですが、それじゃどっちの部屋にしますか?」

さすがに二十歳の女性、じゃんけんで負けた方の部屋、冷蔵庫とルームサービスは、負けた方が持つという提案です。
その場でじゃんけんです、負けたのは私でした。
クロークから荷物を受け取ると、各自の部屋の鍵を受け取り私の部屋へ向かいました。
その日初めて入った部屋は、10階に有るオーシャンビューの部屋でした。
由香里さんは、窓際に駆け寄り海に漂う船の明かりを見て感激していました。
その場の雰囲気に照れた私は、由香里さんを茶化します。

「夜の海なんてね田舎で見慣れてるでしょ。」
「こんな見晴らしのいいところ無いもん。」

そういえば、岸壁から見る漁火とは大分雰囲気は違うのは事実です。

「由香里さん、なんにする?ビール,ウイスキー?ワインも有るけど。」
「何でも、○○さんは?」
「ビールかな。」
「私も同じでいい!」

缶ビールを二つ持って窓際の応接セットに近付き、1つを由香里さんに渡すと、籐性の椅子に腰を下ろしました。
何を話するでもなく、由香里さんは海を見ているだけでした。
私は田舎に居る妻のことを考えて、視点の定まらない目で由香里さんの方を見ていました。
今思えば、メロドラマの世界です。
妻帯者の私が、心に傷を負い自暴自棄の状態で、家を離れ偶然とはいえ高級ホテルの一室で二十歳の女性と二人きり。
何も無い方がおかしい状態です。

「○○さん、聞いてもいい?」
「何?」
「嫌なら答えなくても良いですよ。」

その瞬間、彼女の質問はおおよそ察しがつきました。

「奥さん浮気してるんでしょ?」
「多分。」
「多分って!。」

雰囲気がそうさせたのでしょう、私は今までの経緯を詳細に話しました。
一通り話し終えると、由香里さんは私の向かい側に座りため息を1つつきました。

「そこまでハッキリしてるんだから、○○さんは如何(どう)するの?」

暫く答えることが出来ずに居ると、由香里さんが立ち上がり私のてお引き、ベッドへと誘いました。

「私で良ければ、奥さんにお返しして!」

正直どこかの段階で、私の方からそうなっていただろう事は否定しませんが、由香里さんの方から行動を起こすとは、予想の範囲を超えていました。

「いいの?」

彼女は何も言いません、後で聞いた話ですが、同情心から始まったのかもしれないが、前に飲んだときから、私の事が気になってしょうがなかったらしい。
部屋での飲み直しを提案したときから、彼女はこうなることを覚悟していた、いや望んでいたと。

私は、彼女のジャケットを脱がせると、シルクのブラウスの上から、乳房を軽く揉んだ。
その時彼女の首筋には、鳥肌のように小さな突起が無数に浮かび上がり、ピンク色に染まっていくのがわかった。
妻へのお返し、というよりは由香里の程よく張りのる、若くて白く透き通るような体を獣のように貪った。
結局その日、由香里は自分の部屋へ帰ることは無かった。

状況を理解したのか、由香里はそれ以上の努力をすることを止めた。

「気になるんだ。」
「・・・」
「今日は、帰りましょう?」

それ以上の会話はなく、ホテルを出ると駅へ直行、最寄の駅
で由香里とポケベルの番号を交換して帰宅した。
家に着いたのは、6時頃だったでしょうか。
私が玄関に入ると、妻が迎えに出てきました。

「お帰りなさい。」
「ただいま。」
「お風呂は?、ご飯は食べますか。」
「風呂入るよ。」
「ご飯用意しておきますか。」
「頼む。」

風呂に入りながら、自問自答を始めました、妻が浮気をしたとしても、私も同じ事をしてしまった。
妻に浮気されたからという理由で、それが許されるのか。
この二日間で私は、妻と同じ立場に立ってしまった。
妻は私の不貞を知らない、また私も妻が不貞をした確証を掴んではいない。
その段階で私は、自分の立場を優位にしようという自己保身の行動を取ろうと考え始めていたのかも知れない。

夕食が済むと、私は片づけが済んだら寝室に来るように妻に告げると、2階に上がり子供部屋を覗いた後、寝室で妻の来るのを待った。
ほどなくして妻が寝室にやってきました。
これから何が起こるか分からない恐怖感に慄くかのように、少しうな垂れながら。

「何か話ですか。」

私は、自分の不貞は妻にはばれていない、妻の不貞は確実であることを自分に言い聞かせ、話を切り出した。

「お前、何か俺に隠してないか?。」
「何のことですか?。」
「何か隠していないかと聞いている、同じことは言わないぞ。」
「突然そう言われても。」

私は、出窓からガラムを手に取り、ベッドの上に放り出した。
少し顔色の変わった妻は、タバコについて喋り始めた。

「ごめんなさい、隠すつもりは無かったの、でも貴方が、タバコを吸うのを嫌うかと思って。」
「だからといって、隠れて吸わなくてもいいだろ!」
「ごめんなさい、早く言えばよかったです、タバコを吸うことは許してもらえます?」
「吸うなとは言っていないだろう。」

ちょっと口調が荒くなってきた私に対して。

「貴方が嫌なら止めます。」

少し間をおいて、妻が私に質問します。

「何時気づいたんですか?」
「前にベッドの下に灰皿を隠していたこと有るよな。」
「はい。」

その時妻は、少し安心したような顔をしたように私は思えた。

「ごめんなさい、貴方が嫌なら本当に止めますから。」
「それはそれでいい。」

これからが本題です、私の心臓は鼓動を早めて行き、言葉も上ずってきました。

「他にはないか?」

妻の顔が青ざめていくのが手に取るように分かりました。
この時私は、今まで心の何処かで99パーセント確実と思ってはいましたが、
妻の反応を見て100セントの確信に変えて行き、自分のことなどすっかり棚に挙げ、妻に対する詰問を開始しました。

「他にもあるだろう?」
「他にはありません。」

妻は震えていました、目には涙を浮かべ始めています。
今までベッド端に立っていた妻は左手をベッドにつき、よろける様に、ベッドに座り込みました。
後ろ向きになった妻の顔は見えませんが、肩が振るえ始めているのは分かりました。
その姿を見たとき、私の中に罪悪感のような物が少し頭をもたげた。

「嘘は止めよう、まだ俺に隠していることが有るだろう。」
「・・・・」
「それなら、俺の方から言おうか?」
「何をですか?」

妻は、声を荒げてそういうと、両手で顔を多い前かがみになってしまった。

「麻美、お前男がいるだろ!」
「何でそんなこと言うの!」

逆切れに近い口調で言う妻に対して、私の罪悪感は吹っ飛び、立ち上がると、クローゼットの中から妻のバック取り出し、そのバックを妻に目掛け投げつけました。
床に落ちたバックを妻は胸に抱きかかえ、私に背お向けました。

「バック開けてみろ!」
「嫌です!」
「開けろって言ってるんだ!」
「・・・」

妻は、後ろを向いたまま、首を横に振るばかりです。
怒り心頭に達した私は、妻に駆け寄り、取られまいと必死になる妻から無理やりバックを取り上げると、
内ポケットから例の3つを出すと、ベッドの上に投げつけた。

「タバコは、分かった。
でもこの高級ライターは何だ?
俺は買ってやった覚えは無い。
そのポケベルは何のためにある?、
お前が何で俺に隠れて、そんな物持つんだ?
説明しろ!」
「他人の者を勝手に見るなんて酷い!」
「お前がそんなことを言えた立場か!」

一度は私を睨み付けた妻ですが、あまりの私の形相に床に座り込み泣き出しました。
その時ドアを叩く音がして、静かに開きそこには、儀父母か立っていました。

「大きな声を出して、どうかしたの?。」
「義父さん、義母さん何でもありませんから。」

とりあえずその場を取り繕って、儀父母を自室に帰しました。

暫くの間妻は泣くばかりで、話そうとしません。
タバコを買ってくると言い残しね私は寝室を出ました。
タバコが無かったわけではありません。
その場の重苦しい空気から、しばしの間逃げ出したかったのです。
近くのコンビニでタバコを買い、遠回りして家へ帰り寝室に入ると妻がいません。
慌てて寝室のドアを開け妻を捜そうとしたとき、子供部屋から声が聞こえました。
ドアを開けると妻が床に座り込み、ごめんなさい、ごめんなさい、何度も子供達に向かって頭を下げていました。

「子供が起きるだろ、向こうへ行こう。」

弱々しく立ち上がる妻、寝室に戻った妻はようやく、意を決したように話始めました。
やはり、相手は栗本です。
長きに渡って私を欺いていた事など、ガラムが好きになった理由等聞かなければ良かったと思う内容の話が続きました。
妻は子供達の為に離婚だけはしないで欲しい、その一点に関しては目を見開き真剣眼差して私に訴え掛けていました。
私が暴力を振るうことなく、妻の話を聞くことが出来たのも、由香里との事があったからだと思います。

人間というのは我がままなもの、私を含め自分に有利な言動をする物です。
辻褄の合わない行動を取ったり、辛い目に合えば楽な方へ直ぐ靡く、後先を考えず行動を取ったりすることも多々あり、感情に左右され安い生き物であることは身を持って感じさせられました。
また、人間の学習能力は時に欲望に負け、同じ過ちを起こしてしまう。

妻の話した事は、私にはとうてい理解出来ませんでした。
栗本はやはり猛烈なアタックをして来たようです。
初めは取り合わなかった妻も、帰り際に会社の近くで偶然遭ったりしているうちに、(偶然を装って待ち構えていたのでしょう)、お茶から始まりそのうち例の蔵へ行くことになったそうです。
初めは好きでも無い人だし、お茶の相手ぐらいと思っていたのが、女性としての魅力を再三に渡り褒められているうちに、妻も有頂天なってしまったらしいです。
その時私は妻の行動があまりにも軽率なのに腹が立って来て、妻を問い詰めました。

私「そんなしょっちゅう誘われていたのか?」
妻「初めは、月に一度か2週間に一度ぐらい、その内週に一回位遭うようになった。」
私「週に一度位会う様に成ったのは何時からなんだ?」
妻「初めてお茶に誘われてから、半年位してからだと思う。」
私「お茶だけにしても、半年も亭主以外の男とお茶を飲むことに抵抗は無かったのか、その後に来るものが想像できなかったのか?」
妻「今思えば、軽率だったと思います。」
私「違うだろ、最初からお前の中に何か期待する物があったから、誘われるままにしていたんだろ。」
妻「最初からそんなつもりは無かった。」
私「嘘を言うな、だったら何故そんな関係になるまで、一度も私に話さなかったんだ。
お前の気持ちの中に後ろめたさがあったからだろ。
その関係を私に知られたくないからだよな!」

妻は言葉を失い、私の吐き捨てるような言葉に、ただ下を向いているばかり、その姿は茫然自失といったようにも見えたが、私にとっては、言い逃れを必死に考えているようにも見え、妻への罵倒にも誓い追求は暫し続いていきました。

私はどんな言葉を妻に浴びせ掛けたのだろう、何時しか自分自身が涙声になっているのに気付き、それを隠すかのように目に入ったガラムを一本取ると、震える手で火をつけて深呼吸するように深く吸い込んだ。
目眩を少し感じながら冷静な自分が戻る間、寝室は静まりかえっていた。
タバコを吸い終えた私は、妻に栗本との肉体関係について質問した。

私「何時からセックスしてた。」
妻「半年位前からだと思う。」
私「何回位栗本に抱かれた?。」
妻「解らない。」
私「解らない位抱かれたのか。」
妻「・・・」
私「俺が知らないと思って、やりまくってたのか?」
妻「そんなにしょっちゅうはいてません。」
私「じゃ、何回なんだ?。」

答えの帰ってこないもどかしさに、また私の声は荒々しさを増していました。
瞬間妻は、体を硬直させ私の目に視線を合わせ10回位と答えました。

私「10回じゃ、辻褄が合わないだろ、
週に一回は会っていたのに?」
妻「生理の時も有ったし、会うだけで直ぐ帰る事も有ったから、それ位しかしてない。」
私「それ位しかだ、何回であろうがお前のしたことは、
絶対にしてはいけない裏切り行為だ。」
妻「ごめんなさい。」

妻は突っ伏して泣き崩れた。
私と言えば、自分で回数を問いただしておきながら、行為そのものを攻めていて支離滅裂の感が否めませんでした。
そして確信に迫ろうと、内容を変えていきました。

私「栗本とのセックスがそんなに良いのか?。」
妻「・・・」
私「そんなに俺とのセックスが詰まらなかったか?
それとも俺のことがそんなに嫌いか。」
妻「貴方のこと嫌いになった訳ではないです。」
私「嫌いじゃないのに他の男とセックスできるのか?
お前は何時からそんな淫乱女になった。」
妻「ごめんなさい。」
私「もう謝って済む問題じゃない。」

その時の私は、事の前後は有ったにしても、妻と同じ立場であることに気付いてはいましたが、妻の浮気が無ければ私は浮気をしていなかった、そう自分を弁護する気持ちが頭の中を支配していました。

私「とにかく、栗本と話を付けないとな。」
妻「・・・」
私「直ぐ電話しろ。」
妻「今日は勘弁してください、もう時間も遅いし。」
私「時間も何にも関係ない。」
妻「奥さんに変に思われますから、勘弁してください。」
私「いずれ奥さんにも解ることだろ、良いから電話しろ。」
妻「・・・」
私「おまえが出来ないなら俺がする、番号を教えろ。」
妻「解りました、私がしますから。」
私「俺が話がしたいと伝えろ、それで解るだろ。」

別途の脇の電話を手にした妻は、啜り泣きを抑えながらダイヤルし始めた。
掛け慣れているのだろうか、友達の家に電話する時でさえアドレス帳を見ながらすることが有ったのに、その時妻は何も見ることなく、記憶だけでダイヤルしていたのです。その光景を見た瞬間、私は嫉妬心で顔が強張っていくのを感じました。

妻は、受話器を耳に当てたまま、フックを左手の人差し指で静かにきった。

私「何で切る、掛けられなければ俺が掛けると言っただろ。」
妻「ちょっと待って。」

数秒おいてから、また妻は慣れた手つきでダイヤルした。
妻のその行動は、栗本との約束ごとだったようです。
ワンコールの後に再度電話があった時は、妻からの電話という栗本と妻の暗号だったのです。
おそらく、その時奥さんがいれば栗本が静止し電話に出るのでしょう。

妻「もしもし」
栗本「・・・」
妻「私、麻美です。」
栗本「・・・」
妻「主人が・・・」
栗本「・・・」
妻「はい」

妻は受話器を置いた、あまりの会話の早さに私は妻に問いただした。

私「随分早かったな、栗本は何て言ってた。」
妻「掛けなおすそうです。」

妻の電話の内容から不倫の発覚を察知した栗本は、その場を取り繕い、会社の事務所からまた電話すると言い残し電話を切ったそうです。
時間も夜の10時を過ぎていたでしょうか、栗本から電話がある間私は妻を攻め始めました。

私「やっぱり、おまえ達は確信犯だな。あんな約束事まで二人の間にはあったのか?」
妻「・・・ごめんなさい。」
私「結局、栗本にお前の方から電話して誘ってたと言うことか。」
妻「違う、私から誘ったりしてない。」
私「どう違うんだ。」
妻「夜ポケベルに彼から連絡があったときに、私から電話してたけど、何も無い時は私から電話はしていない。」
私「どっちにしろ、連絡に応答していること自体が誘いに応じているという事だろ。」
妻「そういう事になるかも知れません。」
私「なるかも知れないじゃないだろ、自己弁護するなよ。」
妻「はい、すみません。」
私「そのうちお前は、みんな栗本が悪いとでも言い出しそうだな。」
妻「・・・」

妻がまた黙り込むと、我に戻った私はふと気付きました。
もう直ぐ掛かってくる栗本の電話に対して、私自身なんの準備もしていないことに。
どう切り出すのか、何から話すのか、どういう態度口調で望むのか、そんなことを考えているうちに電話がなりました。私に視線を合わせた妻に対して、無言のまま電話に出るよう、顎を動かし指示しました。

妻は電話に向かい、一度深呼吸して気持ちを落ち着けるようにゆっくりと受話器を取った。

妻「はい○○です、」
栗本「・・・」
妻「私、麻美です。」
栗本「・・・」
妻「主人に替わります・」
栗本「・・・」
妻「でも、私は言えない。」
栗本「・・・」
妻「とにかく話をして下さい、お願いします。」

受話器の向こうで栗本が何を言っているのか、私には想像もつきません。
ただ妻が受話器に向かい、泣きながら栗本に私と話をするように頼む姿が見えるだけでした。
私に電話を替わるでもなく、状況に変化の起きない事に腹を立てた私は、妻を怒鳴りつけた。

私「何をウジウジ話してる。」

受話器を手で覆いながら、私の方を向きながら妻が言うには、日を改めてご主人とは話をすると栗本が言っているとの事。
私は我を忘れ妻に駆け寄り、奪うように受話器を取った。

私「おい、日を改めるとは、どういう事だ。」
栗本「・・・」
私「おい、聴いているのか。」
栗本「聞いてる。」
私「聞いてるなら、きちんと答えろ。」
栗本「今日は、お遅いし日を改めて・・・」
私「お前も、こいつも(妻)今日は遅いの何だの、お前たちのした事が解っててそんな事を言ってるのか。」
栗本「・・・」
私「今からそこに行く、どこに居るんだ。」
栗本「明日にして貰えないですか。」
私「だから、何で今じゃ駄目なんだ。」
栗本「・・・直ぐ戻ると、女房に言ってきたし・・・」
私「何言ってんだ、お前の奥さんも呼べはいいだろ、何れ解るんだ。」
栗本「それだけは、勘弁して下さい。」

栗本という男は、私よりも5歳ほど年上でしたが、私の恫喝に近い口調に年齢が逆転したような言葉遣いになっていくのが、私には手に取るように解りました。

私「とにかく今から行く、事務所に居るのか。」
栗本「はい。」
私「奥さんも呼んでおけ。」
栗本「・・・」
私「解ったのか、とにかく行くからそこで待ってろ。」

私は一方的に電話を切り、隣に立っていた妻の袖を掴むと、寝室を後にした。
栗本の会社の事務所は、車で10分ほどのところに有ります。
事務所の前に車を止めると、中から栗本らしい男が出てきて、こちらに向かい頭を下げています。
車から降りると栗本が無言でドアを開けたまま事務所に入っていった。
事務所に入ると、応接室の前で栗本がこちらへどうぞ、賓客を招くかのように、深々と頭を下げた。
私の後ろに隠れるようについて来る妻は終始俯いたままです。
私は促されるままにソファーに座ると妻が私の隣に座ろうとしたので、お前はそっちだと、栗本の隣に座るように指示しました。私に隣に座ることを否定された妻は、声を上げて泣き出した。

妻がソファーに腰を下ろすと、栗本が立ち上がり炊事場の方に行こうとするのを静止し、私は話し始めた。

私「お茶ならいらない、奥さんは。」
栗本「すみません。」

ソファーに腰を降ろしながら栗本がそう言った。

過去に面識の有った栗本の印象は、年下の人間を上から見下すような言動を取る男という印象があったためか、目の前にいる栗本はまるで別人のように思えた。
おどおどして眼が泳ぎ、まがりなりにも企業の専務と言った感じには到底見えなかった。

私「奥さん呼べと言ったよな。」
栗本「すみません。」
私「すみませんじゃないだろ、奥さんを呼べよ、今すぐ。」
栗本「・・・」
私「返事をしろよ。」
栗本「女房にだけは・・・お願いします。」
私「他人の家をめちゃくちゃにしておいて、自分の家は守りたいのか、むしが良すぎないか。」
栗本「すみません、何でもしますから。」
私「馬鹿野郎、そんなに家が大事なら最初からこんなことするなよ。」
栗本「もう奥さんとは会いません、私の出来ることは何でもします。」
私「もう会わない、それで済む問題じゃ無いだろ、その程度の気持ちでお前ら遣ってたのか。」

私は栗本に対して、社会的な立場を認識させる意味も込めてあえて栗本を専務呼んだ。

私「専務さん、これからどうする気なの、俺の家はもう終わりだよ。」
妻「貴方、私が悪かった許して下さい。」

私の怒りが治まりそうも無いことを認識した栗本は、自己保身の言い訳をし始めた。

栗本「○○さん、私も○○さんと同じで婿養子です、妻や儀父母にこのことが知れると、私はこの会社にも居られなくなりのす。」

栗本が婿養子であるということは初耳でした、しかしその身勝手な言い分に私の怒りは増すばかりでした。
このことが私の口から出る言葉に辛辣さを増して行きました。

私「お前ら、セックスがしたいだけで、後のことは何も考えてなかったのか。」
栗本「・・・」
妻「ごめんなさい。」
私「お互い家族のある同士、ばれた時にこうなる事は予想がつくだろ。」
栗本「○○さんの家庭を壊す気は無かったです。」
私「子供みたいな事を言うなよ、実際に壊れたろうが。」
栗本「申し訳ありません、何でもしますから。」
私「だったら、ここに奥さんを呼べよ。」
栗本「・・・」
私「麻美、専務さんはお互いの家庭を壊す気は無かったそうだ、お前はどうなんだ。」
妻「私も同じです。」
私「二人とも後のことは何も考えないで、乳くりあっていたのか、それじゃ、犬や猫と一緒だろ。」

堂々巡りの会話が続き私は怒りが治まったわけではありませんが、栗本という人間の愚かさに呆れ返っていました。

私「これ以上は話をしても無駄のようだから、明日もう一度話をしよう。」
栗本「・・・はい。」
私「明日の夕方連絡をくれ、それまでに奥さんとちゃんと話をしておいてくれ。」
栗本「・・・」
私「お前が話さなければ、俺が話しをするだけだ、事の重大さが解るなら、最低限の誠意は見せろ。」
栗本「・・・」
私「麻美、お前はここに残るか、栗本と話があるなら送ってもらえ、俺はこれで帰る、お前らの顔を見てると虫唾が走る。」
妻「連れて行ってください。」
私「止めたほうがいい。今、車で二人きりになったら、お前を殴りそうだ。」

そう言い残して、私は一人で栗本の事務所を後にしました。家に着き、やりきれない思い出寝室に入ると、間もなく外に車の止まる音がしました。寝室の出窓から外を見ると、栗本の車でした。ライトを消した状態で、5分程止まっていた車から妻が降りると、車は躊躇することなく走り出した。ベットに横たわり妻が入ってくるのを待っていると、ドアが開き妻が足取りも重く寝室に入ってきました。

私「早かったな、栗本と外で何を話してた。」
妻「何も。」
私「何も話さない訳が無いだろ。」
妻「はい、ただもう二人で会うのは止めようって。」
私「もっと早くそうするべきだったな。」
妻「すみません、ごめんなさい。」
私「お前は、この家のことをどう思ってたんだ、
子供達をどうするつもりだったんだ。」
妻「ごめんなさい、何でもします。」
私「栗本と同じ事を言うのは止めろ。」
妻「ごめんなさい、許して下さい。」
私「許せる訳が無いだろ。」

その言葉を最後に沈黙が続き、妻は子供部屋に行き、私は一睡もすることなく朝を迎えました。

翌朝食事も取らず会社に出た私は、誰も居ない事務所で今日の夜起こるであろう修羅場を想像しながら、自分の席に座っていました。突然肩を揺すられ目が覚めました、いつの間にか眠ってしまったようです。
目を開けると、そこには後輩が心配そうに私を覗き込んでいます。

後輩「先輩どうしたんですか。昨日泊ったんですか。」
私「おはよう、いやちょっと寝てしまった。」
後輩「何か有ったんですか?」
私「別に何も無いよ。」
後輩「なら良いですけど、顔色が悪いですよ。」

普通の徹夜明けならそうでもないのでしょうが、流石に昨日のような状況下での不眠は、精神面が顔に出るようです。

私「ありがとう、大丈夫だから。ただの寝不足だから。」
後輩「それにしても、普通じゃないですよ、顔色が悪過ぎますよ、休んだ方が良いんじゃないですか。今月の予定も達成していることだし。」

本心では、今日は仕事にならないだろうと思っていました。私は後輩の言葉に甘えることにしました。

私「確かに気分も少し悪いし、お言葉に甘えるかな。」
後輩「何時も頑張っているから、少し疲れたんじゃないですか。社長には、代休ということで、私から言っておきます。」
私「ありがとう、それじゃ頼むか。」

後輩を残し、他の社員が出社する前に会社を後にしました。考えを纏める為、私は港にまた車を止めていました。精神の不安定さに加え、睡眠不足が手伝い、考えが纏まる訳もありませんでした。結局家へ帰ることにし、家に着いたのは昼ちょっと前でした。家の駐車場に車を止めたとき、義父の作業用の軽トラックが止まっていたので、昼飯でも食べているのかと思い、玄関を開け居間に顔を出した私はびっくりしました。そこには、居るはずの無い妻と祖父母が三人で神妙な顔でこちらを見ているではないですか。状況は直ぐに飲み込めましたが、私からは言葉が出ません。ちょっと気まずい雰囲気の中、着替えてきますと私が言うと、義父が口を開きました。

義父「着替えたらで良いから、ちょっと話を聞いてくれないか。」
私「・・・解りました、とにかく着替えてきます。」

詳細は別として、妻の今回の件に関しての話であることはいうまでも無いでしょう。
どの様な方向に進むのか、私自身も不安で答えの出ていない状況でした。
着替えを済ませ、タバコを一本吸うと一階の居間に行きました。

私「お待たせしました。」
義父「今日は早かったね。」
私「え、まぁ」
義父「話というのは、麻美のことなんだが。」
私「はい。」
義父「○○君、麻美のことを許してはもらえないか。」
私「・・・」
義父「○○君の気持ちは良くわかる、遣ってしまった事は取り返しのつかないことかもしれない、そこをあえて、お願いする。」
私「・・・」

私は本当に言葉を持ち合わせていませんでした。
今後どうしたら良いのか、誰かに聞きたいくらいだったと思います。
ただその時自分が持っていたものとすれば、男としての見栄、寝取られ裏切られた男の嫉妬と怒りそれしかなかったように思います。

義父「子供達のことも有るし、何とかお願いできないか、頼む。」
私「これからの事は、私にもまだ解りません、でも夫婦としては遣っていけないと思います。」
義父「それじゃ、麻美を離縁するのか。」
私「・・・」
義父「年寄りが頭を下げているんだ、何とか考え直してくれ。」
私「子供のことは、私もこれから考えて行きます、しかし今の俺には麻美とやり直す自信は・・・」
義父「君がもし、この家から居なくなったら、孫達も住む家がなくなってしまう、この通りだ、穏便に頼む。」

その義父の言葉に、人間の本心を見たような気がしました。
義父としてみればどんな娘であれ、血を分けた娘は可愛い、婿が居なくなれば家も手放さなければならないかも知れない、孫の為とは言っていたが、家を手放したくないだけではと、これは私の僻みかもしれないが。

私「子供達の事や家のことは、これから考えて行こうと、・・・」
義父「麻美、お前も謝れ、お前のした事だ。何ていうことをしてくれた、世間にどう言い訳する。」

義父の本心が見えたような気がしました。やはり、家の事と世間体なのかと、話をしているうちに私のも少し興奮し始め、まだ決めてもいない事を口にし始めました。

私「今日相手と話をします、これからの事はその後で考える事になると思います。」
義母「パパ、麻美も反省しています。子供達の為にも何とかお願いします。」
私「ですから、離婚するにしても子供の親権の問題も有りますし、家のローンのことも有りますし。」

私の言葉に、義父は黙り込み、義母は泣き崩れました。ただ妻だけ覚悟を決めたように下を見たままでした。またその姿は、私にとっては開き直りにも見えました。思わず追い討ちを掛けるような言葉を私は続けてしまいました。

私「話によっては、麻美が相手と再婚と言うこともありますし。そうなれば家のローンも問題なくなります、ただ子供は私も手放したくないですから・・・」

この言葉を聴いた麻美は突然私にしがみ付き、物凄い形相で許しを乞い始めました。

妻「私は栗本とはもう会いません、私が馬鹿でした、貴方を二度と裏切ることはしません、栗本と再婚なんて言わないで下さい、本気じゃ無かったんです、子供とは離れて暮したくない、貴方離婚しないで、お願いします、許して下さい。」
私「とにかく、今日の話が済んでからにしようよ。」
妻「そんな事言わないで、分かれないと言ってくださいお願いします。」
私「お前も今はそう言ってても、これから俺と一緒に居るより、栗本と一緒になった方が幸せかも知れない。俺との生活の不満を埋めてくれた奴だし。」

泣きすがる妻をなだめる様に、私は静かに言葉を掛けました。本当は心の中で、もっと思い知れば良いと思っていたはずです、自分の陰湿な性格の部分がこの時目覚めたのでしょう。

多少妻に対しての恨みを吐き出し、その場を離れて寝室に戻った私は、今晩のことを考え始めました。
栗本はどう出てくるだろう、どう対処したら良いだろうか。
栗本の出方次第で状況はかなり変わってきます。
色々シュミレーションをして見ますが、どれもこれもいい結果は導き出せません。
嫉妬とプライド、妥協点などある訳がありませんでした。

子供部屋から声が聞こえました、子供達が帰って来たようです、寝室を出た私は子供部屋のドアを開けました。
そこには子供達と妻が居ました、子供達は私の顔を見るなり駆け寄ってきます、両足に絡まりつく幼子達は、あまりにも無防備で頼りない存在です。
その姿は、私の中の母性とでも言うのでしょうか、一挙に気持ちを高めました。
この子達を守らなければならない、そんな気持つの高まりは自然と子供達を抱き寄せる腕に力を増やさせていきます。長女がまた口火を切ります。

長女「今日は、パパもママもお休みだったの。」
私「そうなんだ、でもねこれから大事なお話があるから、お外で遊んでおいで。」

少しいぶかしげにしながらも、弟の手を引いて近くの公園に遊びに行く長女を見送りました。
その光景を見つめていた妻は、今までに無く大きな声で泣き出し、目からは大粒の涙がこぼれ落ちていました。

私「あの子達の事は良く考えないといけないな。」
妻「・・・はい。」
私「お前と、醜い争いはしたくは無いが、私もあの子達を手放す気は無い。
ただ、子供達を引き離す結果になることもあるかも知れない。」
法律は、私の方にばかり味方してくれないだろう。
もし私がこの家を出れば、事の始まりは別にして、お前の方が、子供達にとって生活し易い環境に見えるかもしれない。
母親であり、仕事も持っていて祖父母も同居、ローンは残っているにしても持ち家。
さらに再婚相手も居るとなれば、独身男の俺よりは格段に有利だ。」
妻「彼と再婚なんてしません。」
私「今はな。」
妻「絶対にありません。」
私「何でそう言い切れる、
好きになった男、それもセックスまでした男、
私と別れれば、もう何も障害は無い。
栗本にしても、奥さんと離婚ということになれば、
お互い好都合だろう。
体の愛称もいいようだしな。
儀父母さんだって、家のローンの心配をしなくていい。」
妻「あの子達の父親はあなただけです、許してください。
彼とはもう会いません。」
私「だから、何を許せというんだ。」
妻「・・・」
私「他の男を愛したお前を許せる程、包容力のある男ではない。」
妻「愛してません。」
私「誰をだ、私か。」
妻「いえ、栗本のことです。」
私「愛していない男とセックスが出来るか。」

そういいながら、私の脳裏に由香里との事が浮かびました。
確かに、その時の自分の精神状態から由香里と結ばれたのは事実でしょう。
しかし、私も由香里を愛してセックスしたのか、良く分からない部分が有ります。
しかし由香里のことが好きになり始めている自分が居るのも事実でした。

家庭が崩壊状態だというのに、当事者を除いては生活は坦々と時を刻んでいきます。
夕食も済ませ、子供達も眠りに着き、イライラしながら栗本からの電話を寝室で待ちました。
妻も片付けを終わらせ、寝室の鏡台に俯いて座っています。
私といえば、結論の出ないままベッドに横たわり、タバコをふかしているだけでした。
八時丁度にその電話はなりました。
私はベッドから飛び起きると、電話に出ようとする妻を制止し、受話器をとりました。

私「もしもし、○○です。」
栗本「栗本です、遅くなってすみません。」
私「奥さんと良く話し合ったか。」
栗本「・・・はい。」
私「でどうする。」
栗本「出来ればお会いしてお話を・・・」
私「当然だね、電話で済むむ問題じゃない。」
栗本「出来れば昨日の事務所で・・・」
私「良いよ、お互い家族には心配かけたくないからね。」
栗本「すみません。」
私「直ぐに出るから。」

車で事務所に着くと、既に栗本は着いているらしく事務所には明かりがついていました。
車を降りると、昨日と同じように栗本が入り口で出迎えました。
事務室に入ると小柄な女性が一人、こちらに向かい深々と頭を下げていました。
その人が栗本の奥さんであることは状況からして疑う余地は有りません。
顔を上げたその人は、年齢は私より少し上に思えましたが、顔立ちの整った綺麗な女性でした。
しかしその目元は少し腫れ上がり、昨日か今日かは分かりませんが、夫婦間で我が家同様の修羅場が展開されたことを私に想像させました。
栗本の奥さんに小さな声で着座を促され、ソファーに座ろうとすると、妻が私に何か訴えかけているが分かりました。
昨日は、私に栗本の隣に座るよう言われた妻は、今日は貴方の隣に座らせて欲しいとでも言うような目つきで私の顔を覗き込んでいました。
私が隣に座る様に伝えると、安心した様に妻は腰を下ろしました。
栗本の奥さんがお茶を持ってくる間、会話も無くただ重苦しい時間が数分間流れました。
奥さんが私の向かいに座り、その後から栗本が妻の向かい側に座りました。
最初に話し始めたのは、栗本の奥さんでした。

奥さん「この度は、主人が大変なことを、申し訳ありません。」
私「奥さんに謝って貰おうとは思ってませんから。」
奥さん「でも、主人のしたことで、○○さんにご迷惑を・・・」
私「私の妻も同罪ですから。」
妻「申し訳ありません・・・」
私「専務さん、それでどうしますか。」
栗本「もう奥さんとは会いません。
本当にすまない事をしたと思っています。
許してください。
謝って済むことでない事は十分分かっていますが。
今はそれ以外に出来ることがありません。」

そう言われた私は、返す言葉がありませんでした。
栗本が、もう少しお互いに非がある有る様な言い方でもすれば、売り言葉に買い言葉で話はエキサイトしたのかも知れませんが、栗本の顔は、一晩でこんなに変わるのだろうかと思えるほど窶れて見えました。
私が拳を握り、返答に困っていると、奥さんが話し始めました。

奥さん「昨日、この人から今回の件を聞きました、○○さんには、大変申し訳ないと思っています。
男として、けじめをつけなければならないと思います。
○○さんの気持ちが治まるようにするには、どのようにすれば良いでしょうか。」

奥さんの言葉に私は、また言葉を失いました。
奥さんにしてみれば、妻は夫を寝取った女、しかし妻を責めるどころか、夫の後始末を気丈にも行っているのです。
ただ妻の浮気に動揺して、話の場に結論すら持ち合わせていない私に比べて、奥さんの言動は女性の強さを感じさせられるばかりでした。

私「奥さんは、どうしようとお考えですか。」
奥さん「大変失礼とは思いますが、
慰謝料という形でお話しするしかないと。」
私「すみません、私はお金が欲しくて話し合いに来たのではありません。」
奥さん「ですから、失礼とは思っています。」
私「奥さんを攻めているわけでは有りません。
ただ、専務さんがどういうけじめをつけるのかが聞きたくて。」
奥さん「この人も反省してます。
手前どもの家も感じやすい年頃の子供が居ます、
私もこの人を許すことは出来ませんが、
子供のことを考えると、直ぐ離婚と言うわけにも行きません。」
○○さんにしてみれば、社会的な制裁を望んでおられると思いますが、
今はそれが出来ません。

奥さんにそこまで言われると、何の反論も出来ませんでした。
もともと妻や夫のある身、喧嘩両成敗は仕方が無いことは分かっていました。
しかし、私は遣り得的な状況だけは嫌だったのですが、奥さんにあそこまで言われれば、男として妻を繋ぎ止めて置けなかったおいめもあり、引き下がるしかないと思いました。

私「慰謝料はお互い様ですから、請求するつもりは有りません。
私は、今後こいつと遣っていけるかどうかわかりません。
私の方からも奥さんに一言お詫びいたします。」

結局、気丈な奥さんに優柔不断な男達が、仕切られた形で話し合いは終わりました。
終始私と奥さんが、会話するのみで当事者の二人は会話に入ることはありませんでした。
改めて栗本の小心さには驚かされました。
帰りの車の中で私は妻に言いました。

私「あの男のどこが良かったんだ。」
妻「・・・ごめんなさい。」
私「俺はあの男以下ということだよな。
自分が情けないよ。」
妻「そんなこと無いです、ごめんなさい。」
私「だったら何故、あの男と寝た。」

妻から返事が返ってくることは有りませんでした。

部屋に帰ると、私達夫婦の間には、出掛ける前よりも一層距離感が増したような気がしました。

私「これで終わったと思うなよ、俺達の事はこれから始まるんだからな。」
妻「そんなこと思ってません。
簡単に許して貰おうとは思ってません。
私「そこからもう違うよ、俺がお前を許せるわけが無いだろ。
もし俺がお前を裏切って浮気してたら、お前は俺を許せるのか。」
妻「私にそんな権利は無いです。」
私「そうじゃない、俺がお前を裏切っていたらとしたらだよ。」
妻「解りません、今の私には。」

今私が、由香里との関係を妻に伝えれば、妻の気持ちは直ぐに解るでしょう。
逆上するか、それとも自分の立場を理解した上で、穏便に済ませるか。
しかし私は、この時点で由香里との事は妻に伝える気は一切なく、この答えを知ることを意識的に先延ばしした。

私「お前に聞いておきたいことがある。」
妻「はい。」
私「栗本のことが好きなのか。」
妻「・・・解りません。」
私「そうやって誤魔化すのは止めろよ。
さっきも言ったが、お前は好きでもない男とセックスが出来るのか。」
妻「本当に解らないんです。」
私「それじゃ、何であいつに抱かれたんだ?
言ってみろ、理由があるだろ。
俺とのセックスに不満があったのか?
それとも、生活が嫌になったか?」
妻「・・・」
私「本当はあいつのことが好きで、セックスがしたくて堪らなかったんだろ。」
妻「・・・違います。」
私「何が違う、どう違うんだ言ってみろ。」
妻「彼と寝たのは弾みだったんです、
初めからそんなことする気は無かったんです。」
私「それなら聞くが、セックスする前に栗本と会っていたことを何で俺に隠してた。」
妻「それは、貴方が嫌がると思って。」
私「普通の男は、自分の奥さんが他の男と、しょっちゅう二人で逢っていれば嫌がると思うぞ。
お前は、俺が他の女と二人きりで、しょっちゅう会っていても平気か。」
妻「すみませんでした、ごめんなさい。」
私「お前が俺に黙っていたのは、何(いず)れあいつとセックスすることを期待していたからだろ。
そうでなければ、黙って逢ってた理由が見つからない。」
妻「ごめんなさい、もうしませんから。」
私「麻美ね本当の事を言えよ、あいつと寝たいと思って付き合っていたんだろ。」
妻「・・・そうかもしれません。」
私「あいつと寝てからも、俺ともセックスしていたのは何でだ。
あいつや俺に悪いとは思わなかったのか。
あいつとの事がばれない様に、しょうがなく俺とも寝てたのか。」
妻「そんな積もりは有りませんでした。
栗本とは、何(いず)れ別れる積もりでした。」
私「ばれなければ、これからも続ける積もりだったのか?」
妻「今更言っても、言い訳にしかなら無いけど、貴方に申し訳ないという気持ちは何時も有りました。
でもずるずると、続けてしまいました。
こんなことになって初めて自分のした事が大変なことだと気付きました。」
私「そんなことにも気付かないくらい、あいつとのセックスが良かったのか。」
妻「そんな言い方しないで下さい。」
私「でも、ずるずると続けていたのがその証拠だろ。」
妻「そんなにセックスが良かった訳では有りません。
ただ、こんな事を言うと貴方に嫌われるかも知れない気と、最初は貴方以外の男性に興味があったのかも知れない。
それがたまたま、栗本だったんだと思います。
だけど直ぐに止めなければと思い話したんだけど、かえって呼び出しが多くなって、最近では貴方が家に居るときまで、電話が来るようになってしまって、しょうがなく逢いに行くと、結果そうなってしまいました。」
私「つまり、結果はどうあれ、お前も承知の上で浮気したのは間違いないということだな。」
妻「本当にごめんなさい。
貴方のことが嫌いになったわけではないです。
栗本とのセックスが貴方より良いからじゃないです。
気の迷いてです、許して下さい。」

何処まで本当か、そんなことはこの時点で私にとっては、さほどの意味は有りませんでした。
妻が他の男と寝ていた、その事実だけは私の心に重く圧し掛かっていた。
私だけの妻であって欲しかった。

--------------------------------------------------------------------------------

「おめでとう」
「いや~ おめでとう御座います」
何がおめでとうなのでしょうか・・僕にはさっぱり意味はわかりません。
人間拍手をする時っておめでとうって気持ちになるのでしょうですか。」
私「そうです。」
由香里「ちょっと決まりの悪い分かれ方だったから、
ちょっと気になって。
外からまた電話貰えませんか。」
私「また後で電話します。」

仕事が終わったのは7時30分ごろでした。
事務所を出た私は、由香里に電話を入れる前に自宅に電話を入れました、やはり妻のことが気になりました。
自宅に電話を入れると、義母が電話に出ましたが直ぐに妻と変わりました。

妻「麻美です、すみません。」
私「帰ってたのか。食事はいらない。」
妻「仕事ですか。」
私「飲み会になりそうだ。」
妻「分かりました、気をつけて。」
私「遅くなるから、俺のことは気にしないで好きにして良いぞ。」
妻「・・・」
私「それじゃな。」

陰湿です、妻に何か嫌味めいた言葉を言わないと気がすまないのです。
妻がどう取ったかは分かりません、といったのは私の妻に対する嫌味の言葉でした。

由香里のところに電話すると、直ぐに由香里が出ました。

私「○○です。」
由香里「無理言ってすみません。」
私「いやそんなことは無いよ。」
由香里「家の方はどうですか。」
私「・・・。」

事の次第を電話で話していると、私の声を遮る様に由香里が言い出しました。

由香里「私の部屋に来ませんか。」
私「お姉さんは・・・」
由香里「○○さん、私一人暮らしだよ。」
私「そうなんだ。」

私と由香里は一度は関係を持った仲です、由香里の誘いを断る気持ちは一切ありませんでした。
むしろ家に帰りたくない気持ちのほうが強く、引き寄せられるように由香里のアパートに向かいました。
仕事柄、土地勘は有る方で、教えてもらったアパートは直ぐに見つかりました。
真新しいそのアパートは、如何(どう)にも女性の好みそうな外観で、私には場違いのような気もしました。
由香里の部屋は二階の奥にありました、チャイムを鳴らすと同時にドアが開き私は一瞬戸惑いました。

私「びっくりしたよ。」
由香里「足音聞こえたから、待ってた。びっくりしたね、ごめんね。」

少し悪戯ぽい仕草が、私に笑顔を取り戻させた。
その時由香里の言葉に変化を感じましたが、でもその時の私はそれが嬉しく感じられました。
玄関に入り靴を脱ぐと、由香里は私の靴をそろえ、手に持ったバックを取り上げると、私の手を引き六畳ほどの居間に連れて行きました。
私の手を握る由香里の手には力が入っていたように思え、私も力を入れ握り返していました。
私と由香里は電話した時点で、お互いを求め合っていたのでしょう。

居間に立ち尽くした私達に会話はなく、握り合った手を寄り強く握り合いました。
由香里の手から私のバックがカーペットの上に静かにおかれた、私は由香里を後ろから抱くようにそっと右手をふくよかな胸元に回した。
由香里の首筋に顔を近づけると、シャンプーの香りがした。
初めて結ばれる訳ではないのに、まるで初めてのように鼓動は高鳴り次の行動に移れません。
雰囲気を察したのか、振り向きざまに由香里が私の唇に軽くキスをすると、小さなキッチンに向かいお茶の支度をし始めた。

由香里「座ってて。お茶、紅茶、それともコーヒー?」
私「何でも。」
由香里「それじゃ、紅茶にするね。」
私「あぁ、何でも良いよ。」
由香里「コーヒーあまりスキじゃないでしょ?」
私「あぁ。」
由香里「この間ホテルでもほとんど呑んでなかったもんね。」

見透かされていました、と言うより由香里はそれほどに私の事を気にしてくれていたのだ思いました。
私は居間の隅においてある少し低めの小さなソファーに座りました。
間もなく由香里が紅茶を入れて持ってきました。
テーブルに紅茶のカップを二つ並べておくと、私の隣にきてソファーの真ん中よりに座っていた私に対して、お尻で割り込むように隣に座りました。

由香里「ソファーちょっと小さいね、お茶どうぞ。」
私「ありがとう。」

本当に小さなソファーです、しかも低い位置なので二人で座ると、たち膝か足を伸ばさないと座れません。由香里はラフなスエットの上下を着ています。飾らないその服装に少しは気持ちが落ち着いてきましたが、鼓動はなかなか正常を取り戻しません。

由香里「大変だったね。」
私「ん。」
由香里「その話は、今日は止めようか?」

その時私は由香里に話を聞いてもらいたい気持ちと、そんな話をするのは止めて由香里を抱きたい気持ちを天秤に掛けていました。紅茶を持つ手が少し震えています。

由香里「緊張してる?」
私「少し。女の子の部屋なんて滅多に入らないし。」
由香里「そうなんだ。」

由香里が突然テレビをつけた。野球放送やクイズ番組、チャンネルが定まらないまま、アパートの家賃話や、仕事の事など暫くの間取りと目の無い話が続きました。いつの間にか、テレビの画面がドラマのラブシーンになっていました。

由香里「なんか、ちょっと恥ずかしいね。」
私「ん・・・」

お互いきっかけを待っていたのてしょう、どちらからともなく、また手を握り合いました。
その間画面から目を離すことはありませんでした。
ラブシーンが盛り上がってきたとき、由香里が私に寄りかかってきました。
ここまでくればもう気持ちを抑えることは出来ませんでした。
スエットの上着を捲くりあげていました、さっきは気付かなかったのですが、由香里はブラジャーをしていませんでした。
豊満な乳房に小さな乳首私が口に含むと乳首が見る見るうちに硬い突起と化していきました。

由香里「○○さん、ちょっとまって。スーツ駄目になっちゃう、隣の部屋に行こう。」

由香里は立ち上がると、隣の部屋へ行きました。私も立ち上がると由香里の後を追いました。
寝室には女の子が寝るには充分すぎる大きさのローベットがありました。
由香里は振り向くと、私のスーツや下着を夢中で脱がせ始めました。
私がトランクス一枚になると由香里は後ろを向き、自分の服を脱ぎ始めました。
スエットの上を脱いだ瞬間私のは由香里をベットに押し倒していました。
由香里に抵抗はありません、押し倒された状態で由香里は自分からスエットの下と下着を一気に脱ぎ捨て、私のトランクスをも取り去りました。
一糸纏わぬ二人は、唇を奪い合うように吸い合い、長い長いキスを交わしました。
由香里の性器に状態を確認することもせず、私は由香里の奥深く陰茎を差し込んでいました。
由香里もその時を待っていたかのように、私の腰の辺りに両足を絡め、喘ぎ声を上げています。
何故か前回にもまして、私は数分で絶頂に達してしまい、由香里の腹の上に果ててしまいました。

私「ごめん。」
由香里「ん~ん、気持ち良かったよ。
私、この間もそうだったんだけど、○○さんの気持ちが良いんだ。」

可愛いことを言ってくれます。
妻とするセックスでは、こんなに早く行くことは最近ありませんでした。
由香里とのセックスは、新鮮で必要以上に自分を興奮させ、短時間で果てさせたのでしょう。

私「タバコ吸っても良いかな。」
由香里「灰皿持って来るね。タバコはスーツの中?」

立ち上がった由香里は灰皿を手に戻って、スーツのタバコを探し当てると、私に渡しました。
私がタバコを口にくわえると、すばやくライターを出し火をつけてくれます。

由香里「美味しい?」
私「あぁ。」

由香里はタバコを吸う私の顔を微笑みながら、少し潤んだ目で見つめています。

由香里「シャワー浴びる?」
私「これ吸ったら。」
由香里「私先に浴びて良いかな?」
私「いいよ。」

由香里が浴室に入って直ぐにタバコを吸い終えた私は、由香里のシャワーを浴びているところを想像していた。
その時、妻のことは、頭のから完全になくなっていました、忘れたいと言う気持ちがそうさせていたのでしょうか。
由香里の若い体を想像すると、私の陰茎は見る見る回復していきました。
気がつくと、私は浴室のドアを開けていました。
そこには、想像通りの光景がありました。
私に理性はありませんでした、由香里に抱きつき胸に吸い付き、性器を弄っていました。

由香里「駄目、ここは隣に聞こえるから。」
私「ごめん、我慢できない。」

由香里の手を私のいきり立ったペニスへ導くと、由香里は目を潤ませて、抵抗をやめ私のする事を受け入れてくれました。
ディープキスを繰り返し、由香里は私のペニスを口に咥え、長いフェラチオしてくれました。

由香里「ベットへ行こう。」
私「ん。」

浴室を出て、体を軽く拭くと寝室に行く数メートルの距離も、一時をも惜しむように唇を重ねあい、転げるようにベットに着きました、私直ぐにペニスをバギナに押し込みました。
長い注挿の後、由香里と共に果てることが出来ました。
またタバコを吸うため由香里から離れ、仰向けのなってタバコをタバコを吸っていると、由香里が愛しそうに私のペニスを摩っていました。
その時突然、私の脳裏に妻が栗本と同じ事をしている光景が浮かんできました。

気になるとどうしようもなくなる、まだ妻に対する嫉妬や未練があるのは認めますが、体までそれに反応してしまいます。
由香里に申し訳ない気持ちと同時に、自分にも腹が立ってきます。
由香里との行為に集中しようとしても、あらぬ妄想が膨らみペニスは萎えて行くばかりです。
それに気付いた由香里は、体を起こしシャワーを浴びに行くと一言残し浴室へ消えた。
浴室から戻った由香里は、下着とスエットの部屋着をきると台所に向かった。

由香里「紅茶でいいね。」
私「ありがとう。」
由香里「ごめん、先にシャワー浴びる?」
私「あぁ、そうするよ。」
由香里「じゃ、上がったら入れるね。」
私「ごめん。」

ベッドから浴室に向かう途中、由香里と擦れ違うと、由香里が私の行く手を遮り、軽くキスをして「行ってらっしゃい」
とはにかむ様に言う。
体を洗い終え、浴室から居間に向かうと、レモンの輪切りを添えた紅茶が、テーブルの上に並べてありました。

由香里「お帰り、早かったね。」
私「さっきも浴びたから。」
由香里「そっか。」
私「さっきはごめん。」
由香里「そんなこと無いよ、
気にしないでょ。」
私「本当にごめん。」
由香里「気にしてないから、
もう言わないで。」

由香里の言葉に頷きながら、紅茶を啜りました。
何だか暖かい気持ちになれました。
その時の私には、ここほど居心地のいい場所は無いような気がしました。

由香里「今日はもう帰ったほうがいいね。」
私「あぁ、そうか。」
由香里「深い意味は無いよ、でも昨日の今日だし、奥さん気になるでしょ。」

紅茶を飲み終えると、身支度をして玄関に向かいました。
後ろから私のバックを持って、由香里が付いて来ます。
靴を履き立ち上がり由香里の方を振り向くと、バックを私に渡すなり抱きついてきました。

由香里「また、連絡してもいい?」
私「もちろん。」

暫しキスをしながら、なごり惜しみながらも由香里の家をあとにしました。
家に着くと時間は12時を過ぎていました。
寝室に上がると妻がまだ起きていました。
私から視線を離すまいとするように、クローゼットの前に立つ私に話しかけてきます。

妻「お帰りなさい、車で帰ってきたんですか?」
私「あぁ。」
妻「飲み会じゃなかったんですか?」
私「俺はほとんど飲んでないから、
酔いを覚ましてから来た。
それより、こんな遅くまで起きてて良いのか、
明日も仕事だろ。」
妻「はい、
そのことで、お話が。」
私「話、なんだよ。」
妻「私、会社辞めたほうがいいと思って。」
私「何でだ。」
妻「あんな事してしまったし、貴方が嫌じゃないかと思って。」
私「別に仕事は関係ないだろう。」
妻「はい。」
私「シャワー浴びてくる。」

別にシャワーを浴びたくは無かったのですが、由香里との事が妻に気付かれるような気がして痕跡を隠すためだったと思います。
シャワーから出てくると、妻はまだ起きていました。

私「まだ、起きてたのか。」
妻「私の事、嫌いになりましたか?」
私「好きか嫌いか、そんなこと言われても、私にその答を聞くのは、酷じゃないか。」
妻「そうですね、ごめんなさい。」
私「ただ、今言えることは、前のようにお前を見ることが出来ない。
これからもおそらく、お前にはまだ俺の知らない部分が有るような気がする。
もしそうであっても、これ以上知りたくも無い。」
妻「私と離婚したいと思ってますか?」
私「その事は今考えている。」
妻「私を殴ってください、私は貴方を裏切った、気の済むように殴ってください。」
私「殴っても昔に戻れる訳じゃないだろ。」

妻は顔を曇らせたまま、何も答えませんでした。一度開いた溝を埋めることはそう簡単では有りません、妻もそれには気付いていた筈です。

不倫は基本的には秘め事です。
その事実が白日に曝された今、妻の栗本に対する気持ちも急速に冷めて行ったようです。
いや元々妻にしてみれば、火遊び程度だったのかもしれませんから、栗本に対してそれ程の執着心は無かったのかも知れません。
それが私にとっては、逆に妻に対して辛く当たらせる原因になって行きました。
不倫をした妻当人が、ほんの数日で平静を取り戻し始めているのに、裏切られた私が辛い気持ちを引きずりながら生活している。
私にしてみれば、不倫相手にも会えなくなり、旦那にも軽蔑され行き場の無い気持ちに撃ちししがれる妻、そうあってくれればもっと気持ちが楽だったかもしれません。
妻にしてみれば、早く元の生活に戻りたいと思っていたのかもしれませんが、そんな妻を見ているだけでも嫌悪感を感じ始めていました。

当然のごとく私は、由香里との時間を大事にするように成って行きました。
家へ帰る時間は次第に遅くなり、時には朝方帰ることも有りました。
そんな生活が一月位続いたでしょうか。
久しぶりの日曜日の休みの日のことでした、私が出かけて来ると言うと、流石の妻も重い口を開きました。

私「出かけてくる。」
妻「何処へお出かけですか。」
私「パチンコでもしてくる。」
妻「子供達がパパが休みだからって、何か楽しみにしてるみたいで・・・」
私「たまの休みだ俺の好きにしていいだろう。
それとも何か、俺に子守をさせて、また、お楽しみですか。」
妻「そんな言い方しなくても良いじゃないですか。
最近帰りも遅いし、たまには子供達と・・、そう思っただけです。」

そう言うと、妻は泣きながら二階の寝室に行ってしまいました。
それまでの私は日曜の休みといえば、家業の手伝いか、それが無い日は子供達をつれて何処かへ出かけたり、それなりにマイホームパパをこなしていた私でした。
最近の私の変わり様には、妻も危機感を持っていたのでしょう。
無論、私はパチンコに行くわけではありません。由香里のところへ行くつもりでした。
それを悟られまいと、妻に嫌味を言ってしまったのです。
そんなことがあったからでしょうか、本当は由香里を連れて日帰りの旅行でもしようと思っていたのですが、終日アパートを出ることはありませんでした。
それでも由香里は喜んでくれました、二人で一日中一緒に居られるだけでいいと。
夜10時過ぎ、パチンコ屋の閉店に合わせるように私は由香里のアパートを出ることにしました。

私「それじゃ、帰る。」
由香里「このまま、泊まっていけば。」
私「そうしたいけどな。」
由香里「ごめん、冗談、冗談。」

その時、由香里の目には、確かに涙か溢れていました。
この一日が、私と妻と由香里の関係にとって、大きな転機となったのでした。

後ろ髪を惹かれる思いで由香里のアパートを後にしました。
家に着くと、二階の寝室の灯りが点いていました。
私は浴室に直接行き、シャワーを浴びてから二階に上がりました。
子供部屋を覗くと、二人の子供はすやすや寝息を立てながら眠っていました。
子供達の顔を見た時、私の気持ちの中に言い様の無い罪悪感が襲い、心の中で謝罪しながら子供部屋のドアを閉めました。
寝室に入ると、タバコの匂いがしました。
ガラムの匂いです、もう火は消されていましたが、ついさっきまで吸っていたのでしょう、
部屋には独特の匂いが充満していました。
妻の顔を見ると、酒を飲んだようで赤ら顔で目が据わっています。
無言の私に妻が話しかけます。

妻「お帰りなさい、遅かったですね。」
私「あぁ。」
妻「お姉ちゃんが、パパはって言うから、仕事と言っておきました。」
私「そうか。」
妻「それと、私達が離婚するのか聞かれました。」
私「何て言った。」
妻「心配ないと言っておきました。」
私「そうか、それでお姉ちゃんは何て言ってた。」
妻「何も言ってませんが、安心したようです。」
私「大分飲んでるのか。」
妻「・・・はい。」

妻は、そう言うと大粒の涙を流しながら俯いていました。

私「何を泣いている。」
妻「・・・私・・・」
私「何だ。」
妻「私、貴方に離婚されたら、あの子達に何て言ったらいいか。」
私「それは、あんな事をする前に、考えるべきことだろう。今更言う事では無いだろう」
妻「貴方お願いです、離婚だけは許して下さい。あの子達の父親でいて下さい。」
私「まだ、離婚するかどうかは決めていない、俺だってあの子達は可愛い。」
妻「じゃ、このままでいて下さい。」
私「それは解らない。俺達は、前のような夫婦には戻れない。」
妻「私の事は、前のようには思って貰えないのは解ります、あの子達の為にこまま・・・」
私「そこまで言うのなら、何であの時思いとどまらなかった。自分の肉欲の為に家族を顧みないで、都合の良い事を言うな。」
妻「本当に、御免なさい。二度としませんから、お願いします。
貴方が何をしようと、文句は言いません。だから、お願いします。
このまま、あの子達のパパでいて下さい。」

妻は何か感じ始めていたのでしょう、私がこの家を出て行くことに異常に神経を過敏にしている様子でした。私は妻の涙を見ながら、由香里の涙との違いを考えていました。
由香里の涙は、高まっていく思い中で私を独占したいと言う想いから来るものだとすれば、妻の涙は何なのか?子供に対する反省の念?それ以外は妻の保身としか私には思えませんでした。

相変わらず私の帰宅時間は深夜が多く、家に居るのは寝るときだけ。
そんな生活が続き、妻は完全にアルコール依存症に成ってしまったようです。
私が帰ると、妻の体から発せられる独特のアルコールの匂いとタバコの匂いとが相まってむせかえる様な空気が、寝室中に充満している事もしばしばでした。
そんなある日、由香里のアパートから自宅に戻り何時ものようにシャワーを浴びて寝室に入ると、
部屋の様子が違いました、ベッドの位置は変わっていませんが、備品の位置やカーテンまで変えてありました。アルコールの匂いもタバコの匂いもしません。

妻「お帰りなさい。」
私「あぁ。」
妻「カーテン古いから取り替えました。」
私「あっそ。」
妻「気に入らなかったら、前に戻します。」
私「どうでも良いよ。」

私の反応の無さに、妻は落胆の色を隠せませんでした。
今の私にしてみれば、この部屋は寝るだけの場所に過ぎなくなっていました。

妻「貴方・・・」
私「何だ。」
妻「1つ聞きたいことがあります、怒らないで聞いてください。」
私「だから何だ。」
妻「貴方・・・付き合っている人が居るんじゃ・・・」

そう質問されたとき、不思議と冷静な私が居ました。
いや早く妻に気付いて貰いたかったのかもしれません。
かと言って、事後の対策が有った訳でもないのですが。

私「だとしたら。」
妻「・・・」
私「居たとしたら何だというんだ。」
妻「居るんですね。」
私「あぁ。」
妻「何時から出すか。」
私「何時からって、何故だ。
それを聞いてどうする。」
妻「別にどうと言う訳では・・・」
私「もしかして、俺が前からお前を裏切って、浮気でもしていたと思ったのか。」
妻「そんなことは言ってませんよ。」
私「残念だか、私が彼女と付き合い始めたのは、お前の不貞に気付いてからだよ。」
妻「そうですか・・・」
私「帳消しにでもなると思ったか。」
妻「そんなこと、思ってません。
ただ貴方が、このまま帰ってこないような・・・」
私「そう成るかも知れないな。」
妻「それだけは、勘弁してください。お願いします。この通りです。」

床に頭を付けて謝る妻に対して、冷たい眼差しで見つめる私が居ました、他人がそこに居れば非道な男に見えたかもしれません。
でも私は、それだけ妻に対しての私の信頼を踏み付けにされた気持ちを表さずには居られませんでした。
由香里との事を名前は出さないにしても妻に告げたのは、最近の由香里の態度がそれを望んでいるようにも思えたからです。

妻「その人の事どう思っているんですか。」
私「どうって・・・好きだよ。」

妻は這いつくばって私の足元に来ると、パジャマの裾を掴むと、首を横に振るばかりで何も声にならない様子でした。その時の妻の心の中に去来する物は何だったのでしょう。この状況になって、初めて自分の犯した事の重大さに気付いたかのように、その夜妻が私のそばから離れることはありませんでした。

翌朝、目が覚めると妻がベッドの脇で寝込んでいました。
時計を見ると8時を過ぎていました。
慌てて起きて身支度をする私に気付いた妻が、また私に縋ります。

私「いい加減に離してくれ。」
妻「嫌、貴方帰ってこなくなる。」
私「会社にも行けないだろ。
行かなきゃ、飯も食えないぞ。」
妻「その人の所に行くんでしょ。」
私「仮に、そうだったとしても、お前に俺を止める権利は無いだろ。
お前が、栗本と乳繰り合っていた日、俺がどんな気持ちでいたか、お前に解るか。」

そう言い放つと、妻はやっと私を自由にしてくれました。
そうはいったものの、焦点の定まらない虚ろな目をした妻が気に掛かった私は、
出社後、直ぐに得意先周りに出かけるということで、外出し妻の会社の前を車で
通りました。カウンターの向こうに妻の姿が見えたとき一瞬ホッとしました。
気持ちは冷めているとしても、子供達の母親であることは間違い有りません。
やはり万が一の事をあってはいけないと思っていました。
安心した私は、由香里に連絡を付け、夕方早めに行くことを告げました。
仕事を切り上げ由香里のアパートに付いたのは、夕方6時頃だったでしょうか。
アパートに着くと何時ものように、由香里が出迎えくれました。

由香里「如何したの、難しい顔して。」
私「ちょっと話がある。」
由香里「何、怖いな。怖い話は、嫌だよ。」
私「向こうで話す。」

居間に向かう途中に台所を覗くと、食事の用意の最中のようでした。
私が居間に腰をかけると、由香里はそのまま台所に立ち、食事の用意を続けました。

由香里「○○話って何。」
私「由香に謝らないといけない事がある。」
由香里「だから、何。」
私「実は、女房に話したんだ。」
由香里「え、何を。」
私「俺が、他に付き合っている人が居るって。」
由香里「え、本当に。」
私「でも、相手が由香里だって事は言ってない。」
由香里「別に言っても良いけど。でも、お姉ちゃんにもばれちゃうね。」
私「ご免、迷惑は掛けないよ。」
由香里「迷惑だなんていって無いじゃん。ご飯食べるよね。」

あっけらかんと話す由香里に、返す言葉の無い私でした。
その頃の由香里は、私の事を名前で呼ぶようになっていました。
微笑みながら由香里が私に問いただします。

由香里「○○は如何したいの。」
私「・・・」
由香里「○○の方が困ってるんじゃないの。しっかりして下さい。
私は○○と一緒に居れればそれで良いよ。」

結局結論を持っていないのは私だけのようです。
妻は、自分の犯した事は別として、私の妻としてこれからも前のように暮せればと思っているのでしょうし。
由香里といえば、たじろぐ事も無く私との関係は確実な物にしようと頑張っているように見えた。
私はいったい如何したいのだろう、愛情の面では由香里を第一に思っているのは確実です。
しかし、子供を理由にするのはずるいとは思うのですが、あの子達と離れて暮す勇気も無いのです。

私「由香里は、本当は如何したい。」
由香里「ん~。本当に言っても良い。」
私「良いよ。」
由香里「でも、私がこれを言ったら、○○困っちゃうよ。」
私「言ってみろよ。」
由香里「本当に言って良い。後で、聞いてないって言わないでよ。」
私「・・あぁ。」
由香里「じゃ、言うね。私と一緒になって、奥さんと別れて。」
私「・・・」
由香里「ほらね、困っちゃった。・・・・だから直ぐでなくていいから、
そうしてくれたら嬉しいなって・・・・ご飯にしよっか。」

由香里は、私の気持ちが妻より由香里に向いている事は十分承知しているのです。
それと同時に子供の事が気掛かりである事も知っているのです。
だからこそ、あえて無理を言わなかったのでしょう。

食事を済ませると、私の気持ちを察知したように由香里が言い出しました。

由香里「今日は早く帰ってあげて。」
私「何で?」
由香里「だって心配なんでしょ。落ち着きがないよ。」
私「そんなこと無いよ。」
由香里「無理しなくて良いよ。」
私「済まない。」

私は進められるままに家へ帰りました。

家へ帰るとリビングには儀父母いましたが、儀礼的な挨拶をしただけで寝室に上がりました。
この頃になると、儀父母とは殆ど会話がありませんでした。

寝室に入ると妻は既にベッドの中でした、私の方に背を向けて寝ている妻を見てみると、まだ寝込んでいる様子はありませんでした。

会話することも無いので、私も寝ようとしてベッドの上掛けを捲った瞬間、私の動きが一瞬止まりました。
上掛けの隙間から見える妻の後姿は、下着を着けていませんでした。
冷静を装いベッドに滑り込みましたが、その後の妻の行動に私は翻弄されるのでした。

お互いに背お向けた状態で、どれ程の時間が過ぎたでしょうか。
言葉も発せず、身動きもせずに息を潜めるように横たわる私。
妻の鼓動が聞こえてくるような静けさの中、妻が寝返りを打つのが解りました。
次の瞬間、妻が私に話し掛けて来ました。

妻「ね、貴方。帰って来てくれたんですね。有難う。」
私「・・・」
妻「彼女は、どういう人なの?綺麗な人なの?私より若いの?ね、貴方。」
私「そんなこと聞いて如何する。」
妻「聞いちゃ駄目なの?教えてくれても良いでしょ。」
私「何でお前にそんな事を話ししなければ成らないんだ。」

振り向きざまにそう言い捨てて、妻の顔を睨み付けた時、私は背筋が凍るような思いをしました。

睨み付けた筈の妻の顔は、私以上の形相で私を睨み返して来たのです。
その形相は、まるで能面のように冷たく心のうちを表に現さない、それは恐ろしいと言う表現しかしようの無い顔に思えました。自分の狼狽ぶりを妻に悟られないように私は言葉を続けます。

私「何だ、その顔つきは、文句でもあるのか。」
妻「私、貴方とは絶対に別れませんから、その女に、貴方を渡しはしないから。」
私「お前、何言ってるんだ、自分の立場をわきまえろよ。」
妻「そんなに私が嫌い、私の体そんなに汚いの、浮気したのは悪いけど、貴方だって、他の女とセックスしてるじゃない。」
私「お前、自分の言っている事が解っているのか、開き直るのもいい加減しとけよ。」

私が起き上がると、妻も起き上がり私を尚も睨み付けます。
私は次の瞬間、思わず妻の頬を平手で殴っていました。

妻「殴りたければ、もっと殴って頂戴、幾ら殴られても、貴方とは絶対に別れない。」

突然妻は、私の手を掴むと何も付けていない自分の胸を私に掴ませ、言葉を続けました。

妻「この胸も、貴方の子供を二人も生んで、こんな形になった、貴方と別れたら、こんなおばちゃん誰も貰ってくれない。貴方達だけが幸せに成るなんて、私我慢できない。」

妻の言っていることは、支離滅裂で脈略がありませんが、唯一私に伝わったのは、嫉妬に駆られた女の理不尽な言い分だけでした。
妻の手を払いのけた私は、今まで心のどこかで迷っていた気持ちに踏ん切りを付ける様に切り出した。

私「そこまで言うのなら、俺も言わせて貰う、お前とはもう遣っていけない、離婚しよう。
お前も栗本と再婚すれば良いだろ。
あいつは、そんなお前でも良くて抱いてくれたんだろ。
お前がその気になれば、寄りを戻せるだろう。
只言っておくが、栗本とお前の場合はそれなりの代償が必要だからな。」

そう妻に言うと、私はベッドから立ち上がり身支度を始めました。
それを見た妻は、追い討ちを掛ける様に続けました。

妻「貴方行かないで。貴方が出て行くのなら、私、あの子達と一緒に死ぬから。」

口惜しく、歯がゆい思いでその場にたちすくむしか、その時の私には成す術がありませんでした。

妻は私に対する監視の目を強くしていきました。私の言動に細心の注意を払っているようでした。
家を出るときは、帰りの予定を聞き、帰宅すれば一日の出来事を根掘り葉掘り聞きだそうとします。
無論私は、一々取り合うことはしませんでしたが、自殺をほのめかす言動が有ってからは、由香里と過す時間が少なくなっていました。

二週間程そのような状況が続いたでしょうか、昼間、由香里から連絡があり電話してみると、話がしたい事があるから直ぐ会いたいとの事でしたので、営業先から由香里の部屋へ向かうことにしました。それでも、仕事を済ませて由香里の部屋に着くまで一時間位かかったでしょうか。由香里は待ちかねたように私を居間に案内しました。

由香里「今日会社に戻らないと駄目かな。」
私「連絡してみないと分からないけど。」
由香里「お願い出来れば、話が長くなりそうだから。」
私「分かった、連絡してみる。」

由香里の言葉に多少不安を覚えながらも、会社に電話を入れ適当に理由をつけて、
直帰することにして今日は事務所に戻らないことにした。

私「連絡したから、戻らなくて良いよ。由香は会社大丈夫なのか。」
由香里「今日私休みだよ。」
私「だから、ポケベルの番号が部屋だったのか。」
由香里「最近私の休みも良く分かってないでしょう。」
私「ごめん。」
由香里「奥さんにあんなこと言われたら、しょうがないよね。」
私「話って何。」

その言葉を出した瞬間、自分の鼓動が早まっていくのが分かりました。
由香里は少しはにかみながら答えました。

由香里「話長くなるから、その前にお願いがあるの。」
私「なに。」
由香里「久しぶりに、一緒にお風呂に入って。」
私「・・・良いよ。」

思えば最近、妻の行動に振り回されて、由香里との営みもおろそかになっていたような気がしました。
由香里が脱衣所に向かって程なくして、私は後を追いました。
狭い脱衣所のでは、既に由香里が下着だけの状態になっていて、ブラジャーを外そうとしているところでした。
その後姿を見た瞬間、私は後ろから由香里を抱きしめていました。
久しぶりに明るい中で見る由香里の体は、私を瞬時のうちに欲情させました。
片手でブラを捲り上げ胸を揉み、片手はパンティーの中をまさぐります。
由香里は、だめよ、とは言うものの言葉と体は裏腹です。
言葉は振るえ、振り向きさまに私の唇を求めてきます。
ねっとりとしたキスをしながら、私の服を起用に素早く脱がせて行きます。
トランクス一枚にされるのに時間はかかりませんでした。
由香里は、トランクスの上から私の膨らみを暫くの間摩っていました。
私も由香里の下着の中の手を休ませることなく動かします。
そして、由香里のバギナに入れた指を注挿し始めると、感極まったのか、由香里は大きな喘ぎ声を上げました。

私「由香、そんな大きい声出して、隣に聞こえないか。」
由香里「意地悪。でもこの時間は、隣はいないから大丈夫。」

そういうと由香里は、お返しとばかりにトランクスの中に手を入れると、いきり立った陰茎を握り摩り始め、唇を求めてきます。
立ったまま状態で吐息交じりの行為は暫くの間続きましたが、由香里の「・う・」と言う言葉と体の振るえと同時に、私も手の動きを止めました。
もたれ掛かる由香里の下着を脱がせ浴室に運び、シャワーで体を軽く流してやり、湯船に抱きかかえるように二人で入りました。
少しサッパリした様子の由香里は、また私の陰茎を摩り始めました。
私のそれは、見る見るうちに大きさを変えていきます、それを見た由香里は私の腰の下に手を入れてきました。
状況を理解した私は、その行為がし易いように腰を浮かせます。
湯面に陰茎がグロテスクにそそり立つと、私と視線を合わせないようにしながら、
由香里は何か愛しいものでも扱うように、両手で摩り、隅々まで嘗め回し、先端の部分から徐々に口に含んでいきました。
歯を立てないように注意しながらも、その行為は丹念に行われていきます。
されている私は無論この上ない快感であることは間違いありませんが、由香里自身も顔を上気させ潤んだ目になっているようでした。
陰茎が限界に近づいたのを察知した由香里は、顔を上げ私の目を見るのです、言葉にはしなくても何を求めているのか、私には解りました。
私が頷くと、由香里は中腰の状態で後ろ向きになり、後ろ手に回した手で陰茎を掴むと、自らバギナの入り口にあてがいました。
ゆっくりと腰を沈め、少しずつ飲み込むように上下させていきます。
すべてが由香里の中に入ると、私は両の手で由香里の胸を揉みしだきはじめます。
後ろ向きになりながら、唇を求めてくる由香里、下から腰を打ち付ける私、由香里のくぐもった喘ぎ声が頂点に達しかけた頃、私が由香里から離れようとすると、
「そのまま・そのままでお願い。」と首を振りながら絶頂に達しようとしている由香里に、「子供できちゃうぞ。」。
そう私が耳打ちすると、「今日は大丈夫だから、そのままお願い・・・」。
そういい終えると、さっき脱衣所で発したのより更に甲高い声で「はぁぁ・う」由香里は大きくのけぞり、胸元をピンク色にそめ、小刻みに震えていました。
私も少し遅れて由香里の中に果てましたが、私が果てる間の注挿のリズムに合わせるように由香里の口からは、
「う」とも「ん」とも判別の付かない喘ぎが発せられ、狭い浴室に響いていました。

浴室から出た私達は、そのまま寝室に向かいました。
少し体のほてりがおさまった頃、私が由香里に切り出しました。

私「ところで話って何だい。」
由香里「・・実はね、お姉ちゃんにばれちゃった。ごめんね。」
私「・・あ・そう。」
由香里「てっ言うより、私から話しちゃったの。だって、何(いず)ればれるでしょ。だから。」
私「そうだな。」
由香里「でもね、お姉ちゃん怒ってなかった。逆に、応援してくれた。」
私「何で。」

由香里の姉の反応に私は少し戸惑いを覚えました。
妹の恋愛相手が、妻帯者である事を知れば大抵の場合は反対するのが一般的だと私は思っていたからです。
由香里は話の途中であるにもかかわらず、また私の陰茎を摩り始めました。

私「それじゃ、お姉さんにちゃんと話しないとね。」
由香里「まだ、話はあるんだけど・・・」
私「次は何。」
由香里「後でまた話す。今日は時間が有るし。」

由香里の手は、陰茎をさする速さを上げていきます。
私もそれ以上の質問は出来なくなり、由香里に覆い被さって行きました。
その後由香里から聞いた話は、妻に関しての話でした。
私は更に妻の一面を知ることになるのです。

貪る様に求め合った私たちが、二つに離れた頃には、外はもう暗くなっていました。
お互いの息が整った頃、話の続きをし始めました。

私「由香、話の続きは。」
由香里「あのね、告げ口するようで嫌なんだけど、お姉ちゃんに聞いた話だからね・・・」
私「何を聞いたの。」

由香里の言葉に何か嫌な予感がしました。
なんとなく妻のことだろう事は予想がつきましたが、聞きたい気持ちとは別の感情が心の何処かに頭を擡げ始めました。

由香里「落ち着いて聞いてね。お姉ちゃんも確証はないらしいんだけど。
麻美さんね、栗本さんだけじゃなかったみたいよ。」

私は、由香里の言葉を飲み込むのに暫しの時間を必要としました。

私「・・今何て言った。」
由香里「だからね、確証は無いらしいんだけど、麻美さん、栗本以外にも付き合っていた人がいたらしいの。」
私「・・何で、お姉さんが知ってるの。」
由香里「その人、お姉ちゃん達の会社の人らしいから。」
私「誰だそいつ。」

私は何時しか、由香里に対する口調が荒々しくなっていました。
確証は無いにしろ、私にして見れば一度ならずも二度までもという感じで、妻に対する怒りを由香里にぶつけていました。
由香里の話を要約すれば、妻の会社に妻と同期の阿部という男性社員がいる、その男とは私も何度か面識があった。
妻が過去に一度出産と育児のため会社辞めた時期に、由香里の姉がその阿部と付き合っていた時期が有ったらしい。
妻が再雇用された時期に、何度か妻と阿部が二人きりでスキーやハイキングと称して出かけた事が有ったというのである。
その頃には、由香里の姉も阿部とは付き合いを止めていたので、とがめる事が出来ずにいたらしい。
とは言っても、過去に付き合いのあった男ですから、由香里の姉としても多少の嫉妬心からか、忠告の意味も含めて、阿部に対して人妻と関係してはいけないと言うと、阿部は肉体関係を否定したらしいが。。
由香里の姉の目には、二人の関係が同僚以上に見えて仕方なかったらしい。

その話を聞いたときの私は、茫然自失、徐々に妻に対しての怒りが頭の中を支配しました。

由香里「やっぱり、話さなければ良かったかな。ご免ね。」
私「・・・いや、ありがとう。」
由香里「大丈夫、本当にごめんね。」

私の頭の中では、妻に対しての詰問の数々が渦巻いていました。
私は一人起き上がると身支度を始めました。

由香里「帰るの。」
私「あぁ。」
由香里「さっきの話、確証は無いんだからね。私から聞いたなんて言わないでね。」
私「解ってるよ、大丈夫。」

由香里の部屋を出て、家に着いたのは11時近くだった。
私は何故か駆け込むように家へ入り、二階の寝室へ上がった。
ドアを開けると、妻がベッドに横たわりガラムを吸いながらこっちを見ていました。

ドア閉めバックを机の脇に置き、クローゼットの前に立った私は、さっきの話をどうやって妻に切り出そうか考えながら、気持ちを落ち着かせる為大きく息を吸いました。
部屋の空気は、ガラムとアルコールの匂いが混じりあった独特の匂いがしました。

妻「遅かったのね。また、彼女のところ。」
私「あぁ。だったらどうした。」
妻「別に何も。」
私「また、栗本から教えてもらったガラム吸ってるのか。」
妻「タバコくらい良いでしょ。別に浮気してる訳じゃないんだから。」

酒の力も手伝ってか、妻の口調も少し棘があるように思えました。

私「そうやって、ガラム吸っているのも、まだ、栗本の事を忘れられないからじゃないのか。」
妻「あの人の事はもう関係ないわ。そんなに言うなら止めれば良いんでしょ。」

妻の口調は段々荒くなっていきました。

私「まあいい、お前に確認しておきたい事がある。」
妻「何を。」
私「栗本のことはもう解ったが、それ以外に、俺に隠している事は無いか。」
妻「何のこと、タバコだってこうやって貴方の前ですってるし。」
私「そんな事を聞いてるんじゃない。」
妻「他に何も無いわよ。」
私「本当に心当たりは無いんだな。」

妻の顔が青ざめていくのが、ハッキリと解りました。

妻は自ら話始めました。

妻「誰から聞いたの。」
私「誰だっていいだろ。」
妻「阿部さんのこと・・・」
私「ああ、そうだ。」
妻「隠すつもりは無かったの。
貴方に話そうと思ったけど、
栗本の件で、これ以上話したら誤解されると思ったから。」
私「誤解って何をだ。」
妻「・・・浮気していたと思われるのが嫌だった。」
私「浮気してたんじゃないのか。」
妻「違います、貴方も知っている様に、同期の人だから、友達の感覚で遊びに行ったりしただけ。」
私「そんなこと俺は知らなかったぞ。何で俺に黙って、二人きりで行くんだ。」
妻「・・・言えば貴方が嫌な思いをすると思って。」
私「俺に隠す時点で、やましい気持ちがあったんだろ。友達だなんて、子供だましは止めろよ。」
妻「・・・本当に友達としてしか・・・」
私「寝たのか。」
妻「それはしてません、絶対に。」
私「信じられないな。」
妻「・・・ごめんなさい。それだけは信じてください。」
私「お前は、何時からそんな女に成ってしまったんだ。栗本の時と同じように、添乗の仕事と言って俺を騙していたのか。」
妻「・・・」
私「麻美、答えてくれよ・・・」

私の目からは大粒の涙が止めどなく流れ、どうしようも有りませんでした。
言葉を発しない私の顔を見た妻は、私の涙に気づき大きな声で鳴き始めました。
思えば妻の前でこんな自分を見せたことは無かった様に思う。
私は涙を拭うこともせず妻に近寄り話しかけました。

私「麻美、本当のことを言ってくれ。」
妻「・・・これ以上のことは何もありません、本当です、信じてください。」
私「阿部とは何で、一緒に出かけるようになったんだ。」
妻「貴方に内緒にしたのは、本当に悪かったです。何故そうしたのか、私にもよく解らない。寂しかったと言ったら嘘になる。でも、家や仕事以外の楽しみが欲しかった。」
私「結局、俺はお前にとって何だったんだろうな。」
妻「貴方ごめんなさい、今更何を言ってもしょうが無いのは解ってます。でも貴方と別れたくない。貴方を他の人にとられたくない。私の我儘(わがまま)だってこと解ってる、でも・・・」

人は時として、過ちを犯します。
それは私も例外では有りません、しかしその過ちを理解し許すことは、並大抵のことではありません。
私は、それを持ち合わせている人間ではありませんでした。
同時に、包容力の無さに自らを卑下し、男として妻を守りきれなかった自分に情けなさを感じました。その時私は、妻をきつく抱きしめていました。

私「麻美、お前を守って遣れなかった。お前を攻めることしか出来ない。許して欲しい。」
妻「・・・」
私「もう、こんなこと終わりにしようよ。」
妻「終わりって。」
私「・・・」
妻「嫌だー。」

私は、泣き叫ぶ妻を胸の中で受け止めて遣るしか出来ませんでした。
不倫の代償は大きいものです、すべてのケースがそうとは言いません。
私達の場合は、余りにもその代償が高く付いたケースでしょう。

------

妻は安心したように、眠りにつきました。

翌朝、久しぶりに妻の声で起こされました。

妻「お早うございます。」
私「あぁ、お早う。」
妻「・・・あのー、今日は帰り遅いですか。」
私「どうしてだ。」
妻「相談したいことが・・・」
私「今じゃ駄目なのか。」
妻「時間大丈夫ですか。」
私「難しい話なのか、
時間が掛かるなら、今晩にしようか。」
妻「簡単な話です。」
私「じゃ、言ってみな。」
妻「私、やっぱり会社辞めようかと思って・・」
私「どうしてだ。
何で辞めるんだ。」
妻「だって・・・」
私「麻美が会社を辞めて何になるのか、俺には解らない。
これからの事もあるし、仕事は持っていた方が良いと思うぞ。」

私の言葉の意味を理解したように、妻はうな垂れていました。

妻「やっぱり、やり直す事は出来ませんか。」
私「・・・すまない。」

その日、由香里には、昨晩のことを伝え早めに家へ帰りました。
子供たちは、夕食を済ませお風呂に入っているところでした。
リビングには丁度、妻と儀父母がなにやら話をしている最中の様でした。
丁度良い機会と思った私は、妻と儀父母に声をかけました。

私「子供たちが眠ってから、話があります。お願いできますか。」

覚悟を決めていたように、各々頭を立てに振っていました。
私は、子供たちと風呂に入ることを告げると、リビングを後にして風呂場に行き、
一頻り子供たちとの入浴の時間を楽しみました。
子供たちは、お風呂から上がると直ぐに眠ってしまいました。
子供たちの就寝を確認した私が、リビングに下りていくと、重苦しい空気の中で三人が私に視線を集中しました。
テーブルを挟んで、向かい側に儀父母が座ったいて、その向かいの椅子に妻が座っていました。
私は長いソファーの端に座った妻に少し距離を置くように腰を下ろしました。
私は腰を下ろすなり間髪を入れず、本題を話し始めました。

私「話というのは、察しが付いているとは思いますが、麻美との事です。」

話を切り出した私に、誰も視線を合わせ様としませんでした。

私「結論から言いますと、麻美と離婚しようと思います。」
義母「子供たちは、如何するつもりですか。」
私「そのことが一番難しい問題なんですが。」
義母「勝手なお願いかもしれないけど、孫たちは連れて行かないでください。
お父さんからも、お願いしてください。」
義父「私からもお願いする、どうか・・・」
私「・・・」
妻「貴方、お願いします。あの子達まで居なくなったら、私・・・」

そのことについては、私自身これまで色々と考えてきました。
私とて、子供たちと生活を出来なくなるのは、身を裂かれる思いであるのは本当の気持ちです。
しかし、自我を抑えて勤めて冷静に子供たちの成長を考えたとき、子供から母親を切り離すのは、子供たちにとって、大人の私より辛い事だろうと私は判断しました。
一緒に暮らしていて子供が高熱を出したり体調が悪いとき、やはり子供たちは母親の名前を口にします。
もし私と暮らす事になったとき、そのような状況になったときに子供達の安住の場は、やっぱり母親の元だと私は考えたのです。

私「子供たちは、置いていきます。
ただし、条件があります。
定期的に、合わせてください。
私は、あの子達の父親ですから。
私からの条件は、これだけです。」

それ以上の会話はありませんでした。
寝室に戻った私の後を追うように妻も寝室に入ってきました。

妻「貴方、ありがとう。」
私「・・・」
妻「本当に、ごめんなさい。私馬鹿でした。もう如何しようも無いんだよね。何を言っても信用してもらえないよね。」

私は泣いてしまいそうな自分を抑えるのが精一杯でした。
妻との出会い、子供達が生まれてからの生活、ドラマの回想シーンのように
次から次えと私の心に押し寄せてきます。
次第に抑えきれなくなった涙がこぼれて来ます。

二週間後、私達の協議離婚が成立しました。
私は直ぐに由香里の部屋に同居することはしませんでした。
町の郊外に、ロフト付きのワンルームを借り一人で生活することに決めました。
男の一人暮らしには十分な広さです。
離婚成立から一週間後、いよいよ私が家を出る日がきました。
友達の業務用のワゴン車に荷物を積み終えると、妻が子供達を二階から連れてきました。
玄関に立つ私に娘が近づいてきて、何か言いたげしていました。
私は娘の視線まで身を屈めると、ゆっくりと話しました。

私「お姉ちゃん、パパは今日引っ越すんだ。
お姉ちゃんとは毎日会えなくなるけど、
パパに会いたくなったり、お話がしたくなったりしたら、
何時でも言っておいで、パパ直ぐに来るからね。」
娘「何でパパ居なくなるの、
○○と一緒に居てくれないの。」
私「パパとママは一緒に暮らせなくなったんだ、
だからパパは別のお家で暮らすんだ。」
娘「嫌だよ、パパ行かないで、○○良い子にするから、我がまま言わないから。
ママもパパにお願いしてよ。」
妻「お姉ちゃんご免ね、ママが悪いの、お姉ちゃんが悪いんじゃないの。」
娘「じゃ、○○がママの分も謝るから、お願いパパ行かないで。」

後ろ髪を引かれる思いで、玄関を閉め駐車場のワゴン車の助手席に乗り込み、助手席の窓を開けると、家の中から娘の鳴き声が聞こえてきます。
それに釣られたのか息子の鳴き声もしているようでした。

あれから数年、私は部屋を替え由香里と暮らしています。
年頃になった子供達は、由香里と同居した当時は私を避けるようになりましたが、最近は事の次第を理解したようで、たまに遊びに来てくれます。
麻美は、再婚もせず未だに一人身で居ます、子供達を介して私からも再婚を勧めて居るのですが。
本人にその気が無いようです。
由香里とはまだ入籍していませんし、子供も居ません。
それは、由香里からの申し出で子供達が独立するまでこのままの状態で良いというのです。

これが、妻の浮気が発覚してからの私達の話の一部始終です。
今でもたまに、ガラムを吸う人を見かけたり匂いを嗅ぐと、あの辛かった時を思い出す事があります。